boidマガジン

2018年06月号

Television Freak 第28回 (風元正)

2018年06月07日 16:23 by boid

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから、『スモーキング』『コンフィデンスマンJP』『声ガール!』の3作品を取り上げます。 

銀行強盗があった信用金庫前(撮影:風元正)




ハードボイルドの美学とか


文=風元正


 5月16日、わが家の近所に銀行強盗が現れた。朝8時頃、男がバールのようなものを持って信用金庫の支店長を脅かし、現金1400万を奪って逃走したのだが、空にはヘリが飛び物々しい雰囲気で、万一犯人がいたら、と気づいて野次馬を止めた。さすがに逃げ切れるわけもないのに時間がかかると思っていたが、この原稿を書き終えた6月4日、46歳の男がついに逮捕された。防犯カメラに現場近く自宅まで車で戻っている様子が残っていたそうで、画像解析から特定まで手順を踏む時間が必要だったのか。ともあれ、西部劇みたいでびっくり。
 文句なしの傑作、原尞の『それまでの明日』も銀行強盗から物語がはじまる。14年ぶりの新作で、極めつきのハードボイルド。主人公の沢崎は携帯電話を持たない私立探偵である。隅から隅までレイモンド・チャンドラーへの深い傾倒が伝わってくる作品であり、ああ、テリー・レノックスがいる、とため息が出るが、もちろん独特の光芒を放つ世界でもある。西新宿を根城にする私立探偵の視線から、いまの日本が浮かび上がってくる。これは映画、と思って調べてみたら、原さんは黒澤組で修行していた人で、黒澤明監督がメガホンを取るならば、という話だそうだ。
 原さんの長編は、今までたった4作。次作がいつ読めるか、こちらの寿命も心配になってきた。

 



 『スモーキング』は路上生活する4人組の暗殺集団の物語。岩城宏士の漫画をテレビ東京とNetflixが組んでドラマ化した。ボスの「佐辺ジィ」は、白髪だが顔は若々しく、静かな殺気に溢れ、瞳は深い哀しみに彩られている。元ヤクザで、殺した人間の刺青の皮を剥がし、ホルマリン漬けにして依頼人に送る「剥師」というのだから、尋常でない。偶然見始めた時、ややセピアがかった色調の画面の中、石橋凌が歩く姿の存在感に魅せられた。武器から食べ物まで調達の達人「物足師」の八丁は金子ノブアキ、圧倒的な身体能力を誇る「潰師」ゴロは丸山智己、声の出ない「薬罪師」のヒフミンは吉村界人が演じるが、みな、迫力十分の上、フラッシュバックする過去の深い傷が陰影を加えている。佐辺がかつて所属していた暗殺組織「クリーナー」の首領・砂地彰を演ずるのが麿赤兒だから、凄みのある顔だらけである。
 殺し、殺されて当たり前の世界で大悪党が消され、多くの血が流れる。覚醒剤を注射して身ぐるみ剥ぐ老人養護施設が出てきて、身内が入院中なので背筋が凍った。しかし、ドラマの中の暴力描写は東映ヤクザ映画以来の様式美に則っており、抑制が効いている。夜の闇はしっとりと濡れ、血に染まる白いシャツに突き立てられたナイフが生け花に見立てられていたりする。「スモーキング」は「的」以外殺さないのが掟であり、「家族」のような絆で結ばれているが、お互いに秘密があったらこの危険な仕事はし遂げられない。社会の外にある人間にしか、体現できない美学があるのは世の常なのか。最近のヤクザがどうシノいでいるのかも垣間見えた。
 「フィルム・ノワール」の系譜は続く。ゴロが想いを寄せる弁当屋のミナミ(橋本マナミ)も、いかつい男ばかりの世界の中で華やいだ色香を発している。いつホームレスに転じるか、未来の知れぬ「格差社会」。隣に広がっているかも、というリアルさを感じる快作である。まず、地上波にここまで過激なドラマがあるのが嬉しい。


『スモーキング』 テレビ東京 木曜深夜1時5分放送

 



 『コンフディンスマンJP』は、惜し気なく多彩な技が繰り出されるのを愉しんでいるうちにもう最終回。ホテルのスイートルームで暮らし、才気煥発でテンションの高い詐欺師ダー子(長澤まさみ)は大活躍で、百戦錬磨のリチャード(小日向文世)は安定感抜群。でも、つい真面目で純情なボクちゃん(東出昌大)に目を奪われてしまう。いったい、あれで人を騙せるのか。しかし、確かに役に立っている。第2話「リゾート王」編では嘘がバレて撃たれるのだが、すべて大掛かりな仕掛けと判明した時、何かに納得した。もうひとり、闇社会に近い五十嵐(小手伸也)も油断ならない。ネット上で「クズかわいい」と人気だそうで、今後の展開が期待される俳優である。
 各回のゲストが、普段はあまりやらない役を演ずるのが興味深い。「美のカリスマ」美濃部ミカを演じたりょうは、神経質で近寄りがたく、パワハラ体質の嫌味な女医師をいかにも、という枠を越えて熱演していた。実像が週刊誌に暴露されて転落しても、団地の庭に生えているヨモギを摘んでサプリを作ると言って、周りの主婦の目を輝かせるオチはいい感じだった。小池徹平が、チームを買ってはなぜかぶち壊す嫌味なIT長者を演じた「スポーツ編」は、突然平野美宇が卓球をしたりしている遊びも巧くハマっていて、よく練り込まれた仕上がりだった。運動神経はないけどスポーツ好き、だから憎悪するという小池のキャラ設定は似合っていたし、最後に爽やかなヒトに戻って一安心である。
 億単位の額を詐取するのだから、画面にスキが生じては台無しになる。身近な設定とちがいリスクを伴うし、プログラムピクチャー的なテンポ感も必要である。「スーパードクター編」の『ドクターX』もかくや、という手術シーンの後、山田孝之が登場した瞬間は、フジテレビの腕力を感じた。もっとチャレンジを続けて欲しい。


『コンフィデンスマンJP』 フジテレビ系 最終回:6月11日(月)夜9時放送(15分拡大)

 



 『声ガール!』は、瀬田なつき監督の名に誘われて見たが、もう青春モノでは巨匠でしょう。冒頭の商店街のシーンから、たくさんの果物の色彩、若い女の子や子供たちのスピード感のある動き、アフレコの真似事をしていたら雪が降ってきたり、もう完璧だった。公園の道ですれ違い走り出す女の子2人は同じ声優オーディション会場が目的地で、やがてライバルになる。
 主人公の八百屋の娘・菊池真琴(福原遥)は、まったくアニメの世界に無知だけれど、芸能プロダクション「イハラオフィス」の大島雄一郎(鶴見辰吾)にスカウトされて声優の卵となり、同じ境遇の5人と寮生活している。私は声優の世界に疎かったが、 オーディションにたくさん落ちたり、音響監督のダメ出しが多かったり、アニメの勉強も必須だし、もうタイヘン。「プロの声優になれるのは1000人にひとり」という本人役で登場のレジェンド戸松遥の言葉に納得である。
 5人の寮は狭く古いけれど、華やかな女の子たちが色とりどりの服で動き回り、カメラも寄りと引きをテンポよく繰り返して、目一杯広い演劇空間になっている。アニメ声の女の子の声が飛び交う世界は眩しい。第6話、ホラー映画の悲鳴が出せなくて悩む物語の中、突然、黒沢清的ビニールカーテンが登場して笑ってしまった。冨永昌敬や川瀬陽太がワンポイントで登場したのも楽しい。
 5人の群像劇としては、主人公の真琴が客観的にみれば苦しい境遇なのに、みなを明るく励ます立場なのがいい味わいである。公園で会ったもうひとり、栗山麻美(中村ゆりか)はプロ意識の高い実力者で、すぐにブレイクを果たして仲間とクールに一線を画し、あまり上手くゆかない子がいるのもリアルである。星の数ほどいる声優志望者がどういうコースを辿るか厳しさがよくわかる展開で、イハラオフィス声優部はどうなるのか。2クール続けて深夜枠で「瀬田マジック」を愉しめたのは望外だった。


『声ガール!』 最終回:テレビ朝日 6月9日(土)深夜2時35分、朝日放送 6月10日(日)夜11時35分放送

 



 カメラマンのたむらまさきさんが亡くなられた。たむら撮影の映画ばかり探して見まくった頃もあり、とても寂しい。『さらば愛しき大地』の揺れる麦畑、『Helpless』のバイクの疾走、『EUREKA』のススキやあの山がカラーに転じる瞬間、もちろん『ションベン・ライダー』の川と光……。印象深いシーンを挙げればキリがない。西部邁さんといい、次々と新宿の強者が向こう側に行かれる。映画と著作から多く学び、酒客として一生を通す姿に接した。享年はたむらさん79歳、西部さん78歳。また、呑んでいそうで……。ご冥福を祈ります。

  冷酒やレンズに写るゆめうつつ

村山貯水池にて(撮影:風元正)





風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。

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