今年はライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの生誕70周年ということで、日本でもその監督作の特集上映や戯曲の上演などのイヴェントが催されましたが、ファスビンダーの母国・ドイツでも大規模な展覧会が行われていました。ベルリンの美術館マルティン・グローピウス・バウで5~8月に開催された展覧会「Fassinder – JETZT」(「ファスビンダーの今」)。その展覧会を秘かに訪れていた『ファスビンダー、ファスビンダーは語る』の訳者であるドイツ在住の文筆家・明石政紀さんによるレポート、明石さんと愛猫ミケさんとのファスビンダー展珍道中(?)を特別掲載します。




文・写真=明石政紀


 この夏、ベルリンの街をほっつき歩いてみると、「リトファスゾイレ」と呼ばれる広告塔にファスビンダーの展覧会のポスターが貼ってある。リトファスゾイレがファスビンダーと少々語呂をなしているのは別として、どうして突然ファスビンダー展なのかと思うと、そういえば今年は2015年である。よってファスビンダーの生誕70周年。つまり37歳でこの世を去ったこの人が、この世にまだ存在していれば人生の70年目を迎えた年だ。とはいっても、ファスビンダーが齢70になった姿など想像しがたいし、生き急いだファスビンダー自身も長生きするとは思っていなかったらしいので、これは本人の想像もはるかに超えた姿であるのはたしかだが。
 それでもファスビンダー生誕70周年。何かが起こらなければならない。どうして生誕48年とか63年11か月と2日ではなく、きりのいい70という数でなければいけないのか、わたしにはよくわからないが、とにかく何かが起こらなければいけない。わたしが生誕70周年を迎えても、何も起こらないだろうが、ファスビンダーの場合は何かが起こらなくてはならない。どうしてそうなのかはよくわからないが、とにかく開催されたのがこのファスビンダー展。展覧会のタイトルは「Fassinder – JETZT」。なんとか自然にお通辞してみると、「ファスビンダーの今」といったところ。ということは、やっぱりファスビンダーが70なった想像図の展示なのか?
 それはともかく、わたしはこの手の展覧会というものに対して懐疑的である。ミロのヴィーナスやクラーナハの絵の実物が見られるのなら喜んで行くが、映画は展示できるものではない。せいぜいファスビンダー本人とその映画にまつわる付属品が展示されている程度だろう。でもまあいい、ファスビンダーならなんでも行ってみる必要がある。 というわけで、わが愛猫ミケと連れだって行ってみることにした。

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