
文・写真=明石政紀
この夏、ベルリンの街をほっつき歩いてみると、「リトファスゾイレ」と呼ばれる広告塔にファスビンダーの展覧会のポスターが貼ってある。リトファスゾイレがファスビンダーと少々語呂をなしているのは別として、どうして突然ファスビンダー展なのかと思うと、そういえば今年は2015年である。よってファスビンダーの生誕70周年。つまり37歳でこの世を去ったこの人が、この世にまだ存在していれば人生の70年目を迎えた年だ。とはいっても、ファスビンダーが齢70になった姿など想像しがたいし、生き急いだファスビンダー自身も長生きするとは思っていなかったらしいので、これは本人の想像もはるかに超えた姿であるのはたしかだが。
それでもファスビンダー生誕70周年。何かが起こらなければならない。どうして生誕48年とか63年11か月と2日ではなく、きりのいい70という数でなければいけないのか、わたしにはよくわからないが、とにかく何かが起こらなければいけない。わたしが生誕70周年を迎えても、何も起こらないだろうが、ファスビンダーの場合は何かが起こらなくてはならない。どうしてそうなのかはよくわからないが、とにかく開催されたのがこのファスビンダー展。展覧会のタイトルは「Fassinder – JETZT」。なんとか自然にお通辞してみると、「ファスビンダーの今」といったところ。ということは、やっぱりファスビンダーが70なった想像図の展示なのか?
それはともかく、わたしはこの手の展覧会というものに対して懐疑的である。ミロのヴィーナスやクラーナハの絵の実物が見られるのなら喜んで行くが、映画は展示できるものではない。せいぜいファスビンダー本人とその映画にまつわる付属品が展示されている程度だろう。でもまあいい、ファスビンダーならなんでも行ってみる必要がある。 というわけで、わが愛猫ミケと連れだって行ってみることにした。
読者コメント