家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから、『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』『逃げるは恥だが役に立つ』『キャリア〜掟破りの警察署長〜』の3本を取り上げます。
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Chim↑Pomの個展会場だった歌舞伎町振興組合ビル(撮影:風元正)



物語の骨法は不変である


文=風元正


 歌舞伎町の真ん中の、解体予定のビルで開かれていたChim↑Pomの個展「また明日も観てくれるかな?」はすごかった。ビル一棟が展覧会。どんなものだか想像できなかったけれど、周囲のピカピカな新しいビルの中で、1964年、前の東京オリンピックの年に完成した昭和感満載の心細い建物だった。作品は解体されて出たゴミだか、飲食店や雀荘の看板だか区別がつかないとして、やたらめったら無軌道なエネルギーに充ちている。ビルの中の「ラーメン二郎」に出没する巨大ネズミをガンガン退治していったりするヴィデオ・アート「Super Rat」には腹を抱えて笑ったし、「ビルバーガー」の迫力は圧倒的だった。ビルの廃材もまた作品として展示するそうだが、チマチマした作品概念をぶち壊す勢いに震撼した。これらの「作品」は、まあ、コレクターには売れないか、とかお財布事情も考えてしまうが、この混沌は焼け跡の闇市が生んだ戦後カルチャーの正統的な後継者ではないか、という気もしてくる。
 今度のオリンピックは、東京の断末魔となるかもしれない。予告された廃墟を、4年前に先取りしたアーティストがいることは、案外未来も捨てたものじゃない、という気にさせられて嬉しい。

ビルバーガー(撮影:風元正)

個展会場の内部にて(撮影:風元正)




 外科医にははっきり、腕の違いがあるようだ。数年前、名医と呼ばれる人に水際立った手術を受けてから、巷のウワサはどうやら正しい、と悟った。だから、「群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけが彼女の武器だ」という一匹狼のスーパー外科医・大門未知子のような人が現実に存在していたとしても、あまり驚かない。テーマ音楽の口笛は「荒野のガンマン」だろうか。第4シーズンに入り、重厚さと安定感がいや増して、これぞ娯楽の王道という仕上がりとなった。私は、ビートたけしが出演したSPドラマで、暴漢に襲われて大怪我をした際、マタギに救われて山籠り、という設定を見て、どこか日本の心の古層に繋がっているという気がしてから、より熱心に見ている。
 このドラマの強力さの理由を考えてみた。まず、勧善懲悪という王道パターンの中、判官贔屓というメンタリティに沿った伝統的なヒーロー像が、白衣の米倉涼子により現代の息吹を吹き込まれたことが第一の手柄である。手術の天才的な手腕のほかは、あまり役に立ちそうにないのもご愛敬だろう。西田敏行、泉ピン子、吉田鋼太郎、生瀬勝久、滝藤賢一などの名優たちが東帝大学病院内で展開する顔芸は秀逸だし、タブレットを抱えた草刈民代のメガネ姿は、これまでとイメージが違っていて新鮮である。「榊原名医紹介所」の岸部一徳が醸し出す、「メロン」と病院内でのスキップに凝縮されるアウトロー感は独特で、「御意」や院長回診、銭湯など長期シリーズならではのお約束は3時のおやつのような楽しさがある。病院という場は演劇的なのだろうか? 俳優陣それぞれの長い芸能キャリアが、ドラマの物語と自然に二重写しになってくるのも味わいを増している。
 しかし、何より際立っているのは、異様なまでの情報量を1話完結の短い枠の中に落とし込んでゆく脚本の力ではないか。第1話の「IT企業経営者」、第2話の「スキャンダル議員」「全国市町村幸福度ランキング1位の村の村長」、第3話の都知事選出馬を目指す女性など、患者たちは記憶に新しいトピックを身にまとっている。その上で、多士済々のレギュラー陣の見所を惜しみなく投入し、手術シーンの緊迫と「私、失敗しないので」という何度聞いても爽快なセリフに至るテンポはあまりに鮮やかではないか、と今さら書き手を調べてみたら『ハケンの品格』の中園ミホさんでした。はい、脱帽です。ずっと、ただ楽しんで見ていました。
 第2話、2人の患者の手術を終えた後、未知子が病院の屋上でガムシロップをいくつも飲むシーンの、空の広さと美しさが深く印象に刻まれている。上の方から「止めろ」とか命じられる閉じられた手術室を出て、命を預かるギリギリの緊張から解放された安堵が十二分に表現され、視聴者としても似た感情を共有できた。未知子の手術の手さばきの鮮やかさと、数多い物語のピースをひとつひとつ組み合わせてゆく脚本家の技術は、どこかで通じる部分があるのかもしれない。

『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』 テレビ朝日系 木曜よる9時放送 (C)テレビ朝日



 『逃げるは恥だが役に立つ』は、心理学専攻の大学院卒「職なし、彼氏なし、妄想好き」の新垣結衣と、IT業界に勤務する「プロの独身男」星野源というカップルが主役。第1回目、番組の最後の「恋ダンス」の、あまりの愛らしさに驚嘆して、より惹き込まれた。「みくりちゃん」ガッキーは今、ドラマ全体を柔らかくて甘いファンタジックな空気感に包むことができる、稀有な存在である。ミュージシャンとしても最も好調な星野源の2人が、恋もせずに「契約結婚」というのも、原作マンガの設定とはいえ奇抜な設定だが、なかなかどうしておとぎ噺ではない。
 今の日本は、成熟している分かなりの面倒も伴う社会である。たとえば、「就活」などの局面で社会から要求されるコミュニケーションスキルを考えるたび、頭を抱えたくなる。額面通りに受け取れば、若い頃の私など大失格だろう。「草食系」という言葉はなかなか実感を伴わないが、特に男性にとって、感情を露わにする必要が生じる恋愛が難しいのは理解できる。また、女性の場合は、きちんとキャリアを構築しようとすればすぐ30歳を越えてしまうし、高学歴だと就職難なのは昭和の頃から変わらない。大人な男女は、ごく若いうちにさっさとパートナーをみつけて結婚しているようだが、そこにあぶれる男女の方が圧倒的多数なのは、言うまでもない。「右肩上がり」など遠い昔の、なかなかに厳しい社会の現実をしっかり押さえながら、丁寧な虚構に包んで提出しているのが、このドラマの良さだろう。家事労働の対価は年間304.1万円とか、登場する数字を覚えてしまった。実写版『図書館戦争』の脚本家である野木亜紀子の実力は高い。
 とまあ、マジメなことを書いてみたがドラマは抱腹絶倒で、いつも笑いながら見ている。『情熱大陸』とか『プロフェッショナル 仕事の流儀』とか『エヴァンゲリオン』とか、縦横無尽の引用が浮かないのは才気だろう。あの小人のチアガール、何なのだろうか。ガッキーが妄想をまことしやかな顔に演じる姿が堪えられない。どこかへ2ファミリーで集まろうとするたび藤井隆の子供が熱を出して、COOKPADを毎日更新しているゲイの古田新太の顔がぬっと出てくるお約束もおかしい。最大の収穫は大谷亮平だろう。いるだけで「韓流」という雰囲気を出せる人はあまりいない。澄ました濃い顔で歯の浮くようなセリフを口にするのが痛快で、日本の今をちょっと批評する重責をきちんと果たしている。
 もちろん、星野源が演じる恋愛に不慣れな「ひらまささん」も好感度が高い。「雇用主」という安定した関係にあるなら冷静なのに、色恋がからむと突然あたふたする姿を全身で演じていて、こちらはついもじもじしてしまう。このドラマの長所は、恋愛を扱うドラマにありがちな、いつ働いてんだよ! という突っ込みをする気にならない点だろう。ガッキーの伯母、独身キャリアウーマンの「百合ちゃん」石田ゆり子も含めて、ちゃんと働いている気がする。「逃げるは恥だが役に立つ」というハンガリーの諺の意味もしっかりと説得されて、今後はどういかされるのか。カップルの親たちもいいキャラクターで、広がった人間関係がどのような形で落ち着くのか、ドラマの中ではみなハッピーであって欲しいと願っている。

『逃げるは恥だが役に立つ』TBS系 火曜よる10時放送  (C)TBS



 日曜日の夜、『キャリア〜掟破りの警察署長〜』を見てほっとするのは、やはり子供の頃から『遠山の金さん』を何度も繰り返し見ているからだろう。「北町署」に赴任した新任のキャリア所長「遠山金志郎」玉木宏は、まず沈着な観察力でバスジャック犯の借金苦を見抜いて事件を解決に導き、いきなり度肝を抜く。新米女性刑事である瀧本美織が、がむしゃらに走ったり、ヘンな恰好をしたり、格闘技を披露したりする姿はお約束だが頑張っている。髙嶋政宏をはじめに、署の現場の刑事たちが並ぶと、濃いお顔の方々ばかりで壮観だ。
 で、第1話は、瀧本が2度、署長に手錠をかけたりしながら、地域の苦情NO.1の落書きの謎を「割れ窓理論」によって追ううちに、連続殺人犯の隠れ場所をみつけるわけだが、話に説得力があった。最近、犯罪が極端になり、日頃の人間関係とは縁のない場で暴発するケースが増えており、地域社会のネットワークと人情で事件を解決する事例にリアリティを与える方がかえって難しいかもしれないが、このドラマでは決して身近な問題から離れない。不良仲間の傍若無人ないじめに苦しむ高校生が「HELP M.I」と描いた字を、連続犯人が乾く前に触ってしまい「ME」になった、という謎解きは秀逸だった。
 玉木と高卒叩き上げの刑事課長・髙嶋政宏のヒゲ面が並ぶシーンは、常に面白い。いかに対照的にするか、髙嶋の演技や役作り上の工夫が光っている。どちらも身長が高いので迫力があるし、2人を手錠でつないだりする遊びも生きている。「金さん」の知恵ばかり目立つのは設定上仕方ないかもしれないが、現場の刑事の泥臭い仕事がなければ解決に至らないことも描いているし、髙嶋の妻と娘はすでに「金さん」のファンになっている。今後はキャリアと現場の相互理解がどういう形で進むのか、展開に期待している。
 遺産を狙う介護士という疑いをかけられる役で久々に奥菜恵が出ていて、いい味を出していた。もうひとつ、刑事役の半海一晃という役者さんから目が離せない。いったい、どういうキャリアを積めばああいう顔つきになれるのか、ドラマの中で何度も顔を見ているはずなのだがとても気になる。
 シリアルキラーを追うのもいいのだが、時折、人情ドラマでしみじみしたい時もある。大器・玉木宏の「見逃せないねえ」という決めセリフも最後まで"見逃せないねぇ”。


『キャリア〜掟破りの警察署長〜』フジテレビ系 日曜よる9時放送  (C)フジテレビ




 今クールは豊作で、時間がいくらあっても足りない。この3作品を選んだのは、意匠を現代的にしつつ、たとえば映画最盛期のプログラムピクチャーの秀作を彷彿とさせる物語であり、あるいはもっと昔の、古典的な骨法に則った構造である点で共通しているからである。作劇法というものは、案外、ギリシアの昔から不変なのかもしれない。そこで、Chim↑Pomの作品が何かの伝統的美学に連なっているのか。今のところ、私にはよく分からない。





風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。