新作『バンコクナイツ』のためタイ・ラオスに潜入した空族による極秘レポート「潜行一千里」。撮影後の6月、トラツキ、カーツヤ、MMMら部隊の一部は、かつてCIAの秘密基地があり、現在もラオス人民軍の管理により立ち入りが制限される基地の村・ロンチェンに入りました。村にある数少ない店で夕餉の時を過ごしながら、トラツキはラオス秘密戦争を通してこの地に定住していたモン族(連載第八回参照)をはじめとする、国境を持たなかった少数山岳民族が辿った歴史に思いを馳せます。

滑走路脇の商店。野菜を売っているおばさん


文・写真=空族


仏歴2559年6月×日

 カーツヤが虚ろな目でAK-47自動小銃を眺めているその横で、わたしは今いちど『地獄の黙示録』のラストシークエンスを思い出していた。あの映画で最後にウィラードは山岳民族のマチェット〜山刀を手にして、カーツ大佐に引導を渡す。そうだ、本当はこの霧に包まれた深山に囲まれたロンチェンにはAKよりも山刀がふさわしい。ウィラードが山刀を捨てると同時に起こるモンタニャール(※ベトナム戦争時の山岳少数民族の総称)の武装解除のシーンの意味が、基地の村ロンチェンの歴史と重なってわたしの脳裏を駆け巡った。
 ところでアジアの山岳少数民族についてわたしがはじめて知ったのは、おおよそ20年前にタイ、ラオス、ミャンマーにまたがる黄金の三角地帯と呼ばれるアヘン生産地域に興味を持ってタイのチェンマイへ向かい、そこではじめて山岳少数民族モン族の存在に出会ったのがきっかけだった。調べてゆくとモン族はじめとする山岳少数民族はもともと国境を持たず、中国雲南省やタイ、ラオス、ベトナム、ミャンマーなど広範囲に渡る山岳地帯で部族や村単位で自治を形成し、交通や村々の交流は独自の文化やしきたりによって行われ、さらには山々を移動する民だという。
 「へえ〜そうなんですか」。かつてのわたしなら間抜けな顔でそう答えただろうが、よく考えてみれば国境の無い世界をフツーに生きるというその感覚。そもそも山のコトならわかるし、わたしたちずっとそう暮らしてきたのに国境ってよくわからないですがなんか威勢のいい偉そうな人たちが勝手に威張ってイチャモンつけてきて困ったもんだ、というような感覚を生きている人々であるとすると彼らの"抵抗”の姿が見えてくる。

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