
文・写真=桜井鈴茂
春がやってきましたね。まだ寒いけど。とりわけ(これを書いている)今日は真冬のように寒いけど。それでも、日差しや外気は、紛うかたなき春のものだ。今朝は平日にもかかわらず小用があって吉祥寺の自宅で目覚めたので、朝食の後に近くの公園に散歩に行ったのだけど、梅はもちろん、(たぶん)モクレンや(たぶん)カンヒザクラなどが咲きこぼれており、小鳥たちや水鳥たちも真冬にはあまり見られない、溌剌とした動きをしていたし、老若男女の人間たちも春らしい朗らかな、あるいは浮かれた表情をしていた。少なくともおれにはそのように見受けられた。
かくいうおれは……ここしばらく、かれこれひと月以上にわたって、沈み込んでいる(もっとも、春になれば心は弾む、というロジックも少々乱暴なのだが)。この間、どうにか連載中の小説原稿を書いたし、ふだんよりは多く映画も観たし、おまけに二度ほどDJまでやって瞬間的には楽しくなることもあったが、あくまでも瞬間的であって、基調の気分は重く、沈み込んでいた。このエッセイのタイトルに因んで言えば、ブルーであった。かなり濃い色のブルーであった。ブルーとは呼べないくらいブルーであった。つまるところ……抑うつ状態である――心療内科などを受診すれば、おそらくは抗うつ薬が処方されるだろう。どうしてこんな状態が続いているのか、自分でもよくわからない。いや、わかっていることもあるけれど、自分でわかっていること以上に、わかっていないことのほうが多そうだ。つまり、心が沈み込むきっかけは、たしかに二つか三つあったのだけど、それらはふだんなら、気の合う友人を酒席に付き合わせて愚痴をこぼしたり、ふて寝をしたり、ジャージに着替えて何キロか走ったり、心をからっぽにしてナイスなロックンロールを聴き続けたりして二、三日過ごせば、どうってことないぜそんなことは、と思えてしまう程度のことであり、こうも長く抑うつ状態が続くことには、自分では与り知らぬ、あるいは自分では認めたくないか認めているとしても人には言いたくない根本的な原因があるのだろう。
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