日本未公開の秀作を紹介してくれる大寺眞輔さんによる映画川です。今回、大寺さんが取り上げるのは『Cameraperson』(カーステン・ジョンソン監督)というドキュメンタリー映画。エドワード・スノーデン氏による内部告発事件を追った『シチズンフォー』(ローラ・ポイトラス監督)など数々のドキュメンタリー映画で撮影監督を務めてきたジョンソン監督が、自身の家族を含む世界各国の風景やそこで暮らす人々を記録した作品です。大寺さんは本作を "思考のプロセスそれ自体の流動”が存在している映画だといいます。
文=大寺眞輔
フィクションであれドキュメンタリーであれ、映画は通常、思考された何かを語るために作られる。そこにあるのは、思考そのものではなく、思考によって作られた/準備された/借りられた形式である。思考はもはやない。それは過去だ。ところが、『Cameraperson』が異例なのは、そこに紛れもない思考が息づいているからだ。しかも、その思考が一体どのようなものであるか、私たちは最後まで正確に把握することができない。それは、ためらいに似てるかもしれない。悲しみに、怒りに、共感に似てるかもしれない。記憶や記憶の欠落に似てるかもしれない。喜びに似ているかもしれない。撮ることの倫理に似ているかもしれない。いや、その全てに似ており、その全てを含み、同時にそのいずれでもない思考のプロセスそれ自体の流動を私たちは『Cameraperson』で体験する。思考の表現を受け止めるのではない。思考の過程そのものの中に巻き込まれるのだ。しかし、それは一体どのような思考だろう。私たちは興味を惹かれ、考え、探ろうとする。この作品は、その意味でサスペンス映画となる。探偵映画ともなる。だが、そのサスペンスの文法は、私たちがよく知っているおきまりのものでは決してない。
2018年12月号
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