boidマガジン

2017年06月号 vol.2

宝ヶ池の沈まぬ亀 第12回 (青山真治)

2017年06月15日 21:18 by boid
青山真治さんによる日付のない日記「宝ヶ池の沈まぬ亀」第12回は、伊豆や京都~北九州に赴き、見逃していたジョナサン・デミ監督作品に加え"地下帝国”の棚で唸りを上げている数々の名作映画を見直す日々が綴られます。そんな中、愛猫の一匹・ボンボンが行方不明になり――





文・写真=青山真治



12、継続より断絶に活路を探る

某夜、編集室にてオールラッシュからカラーリングまで終了。クライアントの指示待ち。繋がりにこだわるより1カットごとの現実を重視したほうが生々しいと確信、帰宅。地下帝国にて『堕ちた天使』『青ひげ』『七人の無頼漢』と見直す。京都にいる間まったくかなわなかった見直し作業、この機が待っていたとは。OPのこの作品とJLGは処女作だけでなく拷問によって第二作まで繋がり、みすたぁ最新作とEGU+JCの代表作の密接な関係にも気づかされる。そして80分という尺の美しさ。RSには殊更に心浄められるが、これは格別。雨中の幌馬車の上と下でおやすみを言い交わす男女の交わらぬ視線。射殺した男の咥え煙草から火をいただいたLMが荷箱に近づくクローズアップでそれを投げ捨てる、この一瞬。一刻も早い字幕盤のリリースを希望。
某日、再び伊豆で二日目に思わぬ事実が発覚、先行きに甚大な不安をもたらす。イチから出直しどころではない、一旦裂けた破れ目はとめどなく拡がり続けるのか。気を取り直すべくデミの遺作『幸せをつかむ歌』を見るが、精神状態のせいで集中を欠く。まんじりともせず夜明け、森の鳥たちが一斉に鳴きだす。鶯、小綬鶏。鴉も威嚇的に声を嗄らして。唯一、娘が印象に残る。少し寝て、昼十二時ちょうど、街のチャイムとともに動物たちは最高潮に騒ぐ。気を取り直して考えると、バンドの1曲目American Girlが『羊たちの沈黙』で誘拐される女子大生が車内で熱唱する曲でもある点でそれら二作は繋がる。つまり「母と娘」という主題。知らないで見たが、メリル・ストリープと娘役メイミー・ガマーは実際の母娘というから本気だ。『クライシス・オブ・アメリカ』のクリュタイメストラとオレステスめいた母子関係、ニール・ヤングの亡父に捧げられた『ハート・オブ・ゴールド』、『ジャーニーズ』でのヤングの兄の登場などデミの、もはやこう言わざるをえないのが悲しいが、後期作品(日本未公開のいくつかを見逃しているが)は徹底して親族関係にキャメラが向けられていたことになる。そんな目であらためて『レイチェルの結婚』を見るとどうなるか。すでにおわかりのとおり、ここでヒロインは自らを助けずして助かる道はない(Amy Winehouseの「日は沈む、涙は乾くままにせよ」だ)がそれを促すのは母との関係であり姉との関係においてということになる。ヒロインが母の乗った車を見送るショットと姉がヒロインの車を見送るそれが見事に対を成していることからもそれは言えるだろうし、さらに姉もまたその後の自身を助けねばならない覚悟をそれに続くエンディングで示される。あるいは、初見の際に気づいていたかどうか、アルトマンへの謝辞は当然『ウエディング』を先行作品としての参照が根拠だろうがその最大のポイントは自動車事故であり、これもまたAmyの歌詞のよう。それにしてもよく考えると拙作『EUREKA』がカンヌに出たとき、デミは審査員の一人だった。のちのち人伝にバーバラ・スコヴァが評価していたと仄聞したが、デミはどうだったんだろう、なんていまさらどうでもいい話だが。ただ、窓辺に砂時計があって、おや、とは思った。見ている間近所の野良がベランダをうろついていたが、一息つくべく座椅子に座るとそこにしょんべんしていやがった。あのやろう。しかしこれも罰のひとつと笑って受け容れる。

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