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2018年09月号

Television Freak 第31回 (風元正)

2018年09月10日 01:38 by boid

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」。今回は現在放送中の連続ドラマから『高嶺の花』(日本テレビ系・水曜放送)、『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』(フジテレビ系・月曜放送)、『グッド・ドクター』(同・木曜放送)の3作品を取り上げます。

(撮影:風元正)




時代と才能


文=風元正


100回目の夏の甲子園は飛び抜けた才能が集まり、負けて欲しくない球児が多く胸が痛いほどだった。去年、仙台育英のランナーにチャージを受けてベースを踏み忘れた中川卓也を主将に、根尾昴、藤原恭大などの綺羅星の如きドラフト候補を揃えた大阪桐蔭はまず負けないと思っていたが、金足農の吉田輝星というスターが現れた。ほかにもプロで活躍しそうな逸材が揃っていて、野球というスポーツの盤石感はすごい。ヘヴィな日程などに対する批判は分かるが、やはり甲子園は聖地である。
高野連は、創志学園の西純矢投手のガッツポーズや吉田投手の「侍ポーズ」を禁止したりで相変わらずだが、グラウンド上ではだいぶん旧日本軍体質が改まっているようでほっとしている。大阪桐蔭の創意工夫に溢れた野球は、西谷浩一監督が進める自主性尊重の賜物である。根尾くんのように、頭脳明晰の上スキーの名手というマンガみたいな2刀流選手はいなかった。サヨナラ2ランスクイズで負けた近江高校の選手が全力で校歌を歌う金足農の選手に拍手をしていたのも驚いたし、知らない間に新しいタイプのスポーツマンが次々と出現している。甲子園の雰囲気が「スポ根」一色でなくなったように、アマチュアスポーツ界のハラスメント体質が大きく変わる日が一日も早く来て欲しい。



『高嶺の花』は、不思議な引力のあるドラマだ。脚本は野島伸司。主人公の華道の名門「月島流」長女・月島もも(石原さとみ)は、いきなりストーカーとして登場する。結婚式当日に婚約者・吉池拓真(三浦貴大)が別の女性を妊娠させたと発覚して破談となり、荒川っぷちを無茶苦茶走り回ってぶっ壊れた自転車を持ち込んだ先で風間直人(峯田和伸)に出会う。風間は通称ぷーさん。祖父の代から続く下町の自転車屋を細々と営んでいるのだが、20年間母・節子の介護に専心してきて恋愛経験ゼロ。心乱れてテンションが目一杯上がっているももにぷーさんは限りなく穏やかに接する。初対面の瞬間、ぷーさんが貫禄十分で、あれっ、と戸惑った。石原さとみがあれだけ美しいのに動ぜず、落ち着いている。
「自分がされて嫌なことをしない。愛しているから」というぷーさんの優しさは尋常ではない。ももと結婚式を挙げるが、誓いのキスをする瞬間に吉池が花嫁を連れ去る。『卒業』そのままでおかしかったが、ぷーさんは静かに笑って事態を受け入れ、前夜、酔った勢いで区役所に出した婚姻届けも回収済、ももにバツはつかない。完璧な立ち回り。
ぷーさんの勧めに従い、ひきこもりの中学生・堀江宗太(舘秀々輝)が、自転車で日本一周の旅に出る顛末も興味深い。富士の樹海で「高嶺の花」を摘もうとしてケガをし、結果として、助けてくれた元美術教師のイルカさん(博多華丸)が山中で静かな死を迎える決意を翻し、脳腫瘍の難手術を受ける決意の背中を押すことになる。ずっと、「ざけんなー!!」と絶叫し、家庭内暴力を振るっていたうざったい少年が、「僕は先に敵ばかり会っちゃった。これから会う人は味方ばかり……イルカさんは僕の味方だ! だったら、まだ行かない!!」という心境にまで変化したのは、離れた場所でイルカさんの人柄まできちんと確認したぷーさんの細やかな配慮による。
つまり、ぷーさんは今時の「男の鑑」なのである。控え目で自己主張をしないけれど、コミュニケーション能力は高く、自分の境遇にきちんと自足している。女のグチでもとことん聴いて、気を逸らさない。「能ある鷹は爪を隠す」の究極形。難しい役柄に峯田和伸はぴったり嵌っていて羨ましい。ピカピカした2枚目では無理で、やはりバンドマンで性格俳優という特別なポジションにいる「芸術家」にしかこなせない。華道のためなら娘を傷つけても平気な家元・月島市松(小日向文世)とどこか裏表の相似形のような存在であり、私は2人の「北風と太陽」的な争いのドラマとして愉しんでいる。
野島伸司は、ずっとロマン主義的な「例外者」のドラマを描いてきた。『高嶺の花』の中心は、「もうひとりの自分が見えない」元天才・月島ももが治癒されるかどうか、という物語である。ももの現状を見抜く眼を持つ神宮流の家元候補・兵馬(大貫勇輔)も現れたが、ともあれ伏線は山ほど張られている。下町側のキャストとして、スナックのママの元亭主役の袴田吉彦とコスプレ嬢役の髙橋ひかるはとてもいい味を出しているので、もっと活躍して欲しい。さて、ぷーさんが月島流を救う運命にあるのか、あるいは家元側の老獪な腹黒さが勝つのか、第3の道があるのか。答えは、もうすぐ出る。


『高嶺の花』 日本テレビ系 毎週水曜よる10時放送

 



『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』はSeason3だが、登場人物が一新されてほぼ新しいドラマになっている。表向きは「資料」課、裏の任務は「ミハンシステム」の実用化というチームの物語である。AIを使用した日本国民のビックデータ解析により殺人を犯しそうな危険人物を割り出すのが「ミハンシステム=未然犯罪捜査システム」。現在の状況を考えるとリアリティがあり、似たようなシステムが極秘で運用されていてもおかしくない。とはいえ、警察だからまだ犯罪を実行していない人間は捜査できず、ヘタに動けば違法。部署自体がグレーゾーンにあるスリルが魅力的である。しかも、チームはみな「訳あり」ばかりだ。
「ミハン」のリーダー・井沢範人役の沢村一樹がすばらしい。元公安のエリートだったが不幸な事件に巻き込まれて家族を失い、「危険人物」として秘かに監視されている。表面は飄々としているが目は常に狂気を孕み、いつ暴発するかハラハラする。そのヤバさについ視線が向かってしまう。
第4話が秀逸だった。危険人物は勤続36年のひとり暮らしの銀行員。「ミハン」の小田切唯(本田翼)が行員として潜入していたら、銀行強盗が起こる。もうひとり客として田村薫(平田満)が潜入しており、ターゲットと小学校の同級生という設定。監視カメラなどの電子機器を駆使した犯罪の見せ方が新しい。強盗は水際立っているようで、何が目的かよくわからず、銀行内に立て籠もるうちに過去の因縁が明らかになってゆく。テンポのよさも美点のひとつだが、何といっても本田翼のアクションが爆発していた。スリムでさほど強そうに見えないのに豹変して、きれいな蹴りが決まるのがチャーミングだ。本田はさまざまな役柄を演じてきたが、トラウマを抱えて強さと脆さもあるキャラがぴったりしていて、ついに自らを発見した気がする。
「ミハン」開発の責任者・東堂定春(伊藤淳史)も犯罪によるトラウマを抱え、襟足の傷跡が痛々しい。テロや無差別殺人など、予測困難な犯罪が増える中、たとえ「超管理社会」と謗られても、秩序を守るためのシステムを構想する官僚は実在するだろう。はたして、犯罪について強い憎しみを持った人間ばかり集めたのが正しかったのか。「ミハン」メンバーの田村の死も、平田満でなければ出せないうら寂しさに痺れつつ衝撃的な展開で、ちょっと驚いた。やはり、刑事ドラマの中の犯罪観も時代とともに更新されてゆかなければ。いずれ、桜木泉(上戸彩)にも、「ミハン」システムに本格的に関わって欲しい。


『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』 フジテレビ系 最終話は9月10日(月)よる9時放送(15分拡大)

 



『グッド・ドクター』は、サヴァン症候群で自閉症スペクトラム障がいの青年・新堂湊(山﨑賢人)が主人公。医師全体の中で0.3%しかいないという小児外科医を「すべての子どもを大人にしたい」ために目指し、驚異的な記憶力を持つが、コミュニケーション能力に障がいを抱える。第一話では子供に隠している病状を正直に口にしてしまい、親から抗議を受けることも。自分の状態をきちんと認識できない子供とどう向き合うか、物分かりのいい親ばかりでもないし、医療現場の厳しさがよくわかる。
先輩の瀬戸夏美役の上野樹里がピュアで暖かな女医さんを好演している。焼肉屋で湊と2人、「僕はおにぎり大好きです」などと話すシーンにほっこりしてしまう。執刀した女児が死んで両親から訴えると言われ、涙にくれるシーンなど感情の起伏をナチュラルに表わす姿に心動かされた。また、名医の高山誠司(藤木直人)にコンプレックスを抱く間宮啓介(戸次重幸)のグチを屋台で聞いている湊のつぶらな瞳も印象深い。瀬戸も間宮も湊の子供を救おうとする純粋な取り組みに救われてゆく。私たちも、ステージ4のがんである院長・司賀明(柄本明)の、湊を医師にしたいという願いに説得されてしまう。
第2話で物語にぐっと引き込まれた。16歳の女子高生が破水し、お腹の赤ちゃんは低体重児。腸がほとんど壊死しており、手術しなければ助からないが術中死のリスクは高い。しかも、患者は貧困に悩む母子家庭で、母親は手術に同意しない。ほぼ絶望的な状況の中で、子供の玩具で女子校生を励まし、とことん赤ちゃんの命を救うことにこだわる湊はついに病院を動かして高山が手術を行う。そして、湊は手術中に赤ちゃんの異常を発見し、高山は「新堂が正しい!」と断言する。手術中の緊迫、そして、助かった赤ちゃんも母親が出した手術の条件により里子に出される。要約が長くなったが、各回、入り組んだ事情に誠実に向かいあっていることを評価したい。第8話、難病の弟を持つ少年が家族と和解する花火は美しかった。
湊の無垢さは山﨑賢人ならではの表現である。ある種の「逆天才」。子供の心に近い医師にどこまで可能性があるのか、ひとつの思考実験として興味深い。医療現場からも支持されているようで、制作陣の真摯な姿勢に好感が持てる。韓国とアメリカでドラマ化されてきたのも、普遍性のある題材という証であろう。ドラマの中の病院経営が赤字なのは止むを得ないとして、どういう希望が見出されるのか。あまり重い期待を持たないようにしつつ、楽しみにしている。


『グッド・ドクター』 フジテレビ系 毎週木曜よる10時放送

 



テレビドラマは俳優が命である。峯田和伸、沢村一樹、山﨑賢人の3人は、上手くキャリアを更新したと思った。峯田を見ていると、ミュージシャンの個性がいかに得難いかが実感される。沢村は「セクスィー部長」時代とはまるで違う深みが出てきた。ずっと「イケメン」だった山﨑は新生面を拓いたし、上野樹里とのコンビの新鮮さは目覚ましかった。安定した世界観の上に成り立つドラマもいいが、視聴者の方も制作側のチャレンジに応える姿勢を保ちたいと思う。
「時代と才能」という言葉は、東京国立近代美術館でゴードン・マッタ=クラーク展を見て出てきた。1978年、癌により夭折したアーティストが垣間見せた都市や建築の未知の貌は、70年代のオルタネイティブなアメリカの可能性が凝縮されている。切断された建物の切れ目、ゴミの構築物、アーティストの働く食堂……。量り売りの魚がゴロゴロしている魚市場を撮影したフィルムがなんともいえず愉快である。文明、あるいは作品概念に対するユーモラスで大仰でない抵抗に共感を覚えた。
マッタ=クラークの作品群は、ベトナム戦争終結後のNYの空気を真空パックしている。ああ、あの時代はこういうことだったかと納得した。平成最後の夏はたぶん、甲子園で活躍した輝かしい才能と男優たちが新しい可能性を拓いたドラマ、そして異常な暑さと天変地異の数々によって記憶されるだろう。

ゴードン・マッタ=クラーク「ゴミの壁」(撮影:風元正)





風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。

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