boidマガジン

2018年09月号

YCAM繁盛記 第48回 (杉原永純)

2018年09月28日 13:44 by boid

山口情報芸術センター=YCAMのシネマ担当・杉原永純さんによる連載「YCAM繁盛記」第48回。まずは相米慎二特集、大岡昇平原作映画特集、真夏の夜の星空上映会、YCAM爆音映画祭などなど、この夏YCAMで行われた怒涛のイベントラッシュを振り返ります。さらに、試写で見た『斬、』(塚本晋也監督)と『恐怖の報酬』(ウィリアム・フリードキン監督)、爆音映画祭 in 三好MOVIXのために訪れた愛知県みよし市のことも。

月に1~2回は愛知に通う。魔都感ある名古屋・栄




夏の振り返り/秋の遠出


文=杉原永純


あいちトリエンナーレの諸々で、月に数度愛知県に通っている。道を覚え、徐々に土地に慣れてきてはいるものの、訪れる場所が初めてのところが多いのでGoogleマップは手放せないのだが、自分のiPhoneのGPSが名古屋ではとにかく狂う。よく迷う。地下街が多いせいかなんなのか未だ原因は掴めず。

 
 
栄のテレビ塔のある久屋大通公園にロサンゼルス広場を発見。名古屋にあるロサンゼルス




あんなに暑かった夏も過ぎ去り、2018年の9月も終わる。あまりにいろんなことがあったので全ては書き尽くせないが思いつくままに書いてみる。
7月には相米慎二特集で、山根貞男さんを皮切りに本当に多くのゲストにきていただいた。山根さんの翌週には濱口竜介監督と木村建哉さんが『あ、春』上映後に、相米について二度目のトーク。翌週、8月1週目は、中原中也記念館の特別展「大岡昇平と中原中也」に関連して、大岡昇平原作映画特集で『野火』を上映、昨年のカナザワ映画祭に引き続き今年も塚本監督に登壇いただいた。
9月24日に終わってしまったのだが、この展示で大岡昇平と中原中也の関係が深かったことを初めて知った。特に死後、中也の評価を高めたのは大岡だったという点。展示物の中には晩年の大岡が中也について語っているテレビ番組の映像が特別上映されていたが、その大岡の表情はとても絶妙で、あのとき何を思っていたのか掴めない。あの表情は自分の文章力では表現できない。中也がとっくの昔に死に、戦後中也の生家に通い『中原中也全集』を編み、そこからさらに年老いてから中也について語る大岡。愛というのかなんというのか、自分にはわからないが、そこまで誰かのことを思い続けることを誰かの言葉が可能にしていたのなら、と考えると、人生の深淵を見たような気分になった。
8月2週目からは怒涛。真夏の夜の星空上映会で三宅唱『ワイルドツアー』お披露目上映。出演者のご親族もたくさん見てくれて、そして天気が直前まで不安はあったのだが、無事最後まで雨を回避。出演してくれた彼らは、すでに2月から明らかに成長している。その出演者たちと家族との関係も様々で興味深い。

 
 
 
『ワイルドツアー』『SING/シング』『シング・ストリート』を上映し、過去最大の動員となった。めでたい



3夜連続の野外上映後、翌日からは爆音の仕込みがスタート。爆音調整を進めつつ、クン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンドと空族、Soi48が羽田から到着。ピンバンドの本番の日も天気が最後まで心配されたが、ギリギリもってくれた。日本で今後、ピンバンドが野外で演奏できる機会はいつ来るのだろうか。曇り空の合間に中央公園を練り歩き、音が鳴り響く。YCAMではどんなライブでも棒立ちのお客さんがほとんどなのだが、誰もが体を揺らし踊ってくれた。

 
 
Soi48とクン・ナリンズ・エレクトリック・ピン・バンド



爆音映画祭の裏側を初めて紹介したバックステージツアーのお題は『PARKS パークス』で。通常上映のスタジオCでの音響と、スタジオAでの爆音上映とで3つの箇所の抜粋を聴き比べた。瀬田なつき監督、松田プロデューサーが夏休み兼ねて来てくれたのも嬉しかった。『DEVILMAN crybaby』では痛恨の上映トラブルも発生してしまったものの、なんとか復旧。最後、土居伸彰さん、樋口さんがトークでうまくまとめてくれた。『散歩する侵略者』には黒沢清監督登壇。黒沢さん登壇日には本当に多くのゲストが駆けつけてくれた。黒沢さんには、今回のYCAM爆音全作品について、樋口さんとトークしてもらい収録、配信するという初の試みにも付き合ってもらい、芸大在学以来トークゲスト以上に大変お世話になってしまった。

 
 
 
 
 
上映もゲストも多かった今年の夏。スタジオAロビーがタイムテーブルで埋まるほどにプログラム数が増えた



『遊星からの物体X』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作は上映素材到着がギリギリになり、海外のサーバーから直接ダウンロードするという初の事態が裏では起きていた。今現在、本編DCPのやり取りを、世界でどのくらいの映画館がネットワークで完結できるようにしているのだろうか。ダウンロードにはかなり時間がかかり、それを映写機のサーバーに取り込みして実際に映像と音が出ることを確認するまでは実に肝を冷やした。素材は無事だったわけだが、現代の映画はもはや物質的な拠り所はどこにもないのだと思い知った。良いとか悪いとかいうことでなく、映画という物体はもはやない。データが作品の本質になっている。
これを書いているいま、溝口健二特集の35ミリプリントが届いたのだが、フィルムは劣化はするとはいえ、支持体が残ってさえいえば「これは映画だ」と言える。重さがある。現在国内で流通する映画は、DCPというフォーマットで、本編になると100GB以上になってくるので、大体が外付けのHDDで送られてくる。もちろんHDDの中身のデータが「映画」であるのだから本当は実体はないのだが、やはり送られてくるHDDがあることで、なんらか手触りを感じてしまう。これが海外のサーバーから直となると、極端に何もなくなった気がしてしまう。海外から映画を取り寄せる際、今どの配給会社でも当然同じようなことが起きているのだと思うが、実際自分でこのプロセスを踏むと急に心許ないような、不思議な気持ちになった。
色々と反省点はあるがこのYCAM15周年のタイミングで、2週間の爆音を試せたのはよかった。まずはご来場いただいたお客さんに感謝したい。そして、ご来館いただいたゲストの皆さんに感謝。来年からの方向性は十分見えた。

 
名古屋の「丸の内」は名古屋駅から二駅のオフィス街。
金曜22時頃到着時は、近隣に晩飯を食べられそうなお店も全く見えず、ファミマの灯りだけが煌々としていた



夏の期間は毎年YCAMに張り付きになるので、秋は出張が増えるのだが、今年は特別多く疲労がじわじわ蓄積される。爆音終わってすぐ、塚本晋也『斬、』、ウィリアム・フリードキン『恐怖の報酬』試写に合わせ東京に飛んだ。『野火』の塚本監督とのトークの記憶も新しかったので、『斬、』と『野火』があらゆるシーンでオーバーラップしてくる。ストイックな作りだが、何度も見れるような骨の太い映画。YCAMで即上映を決めた。
『恐怖の報酬』には心の底から痺れる。こんな映画絶対に今できない。これも早く上映したくてたまらない。爆音で是非見たい、とんでもない代物。
爆音映画祭のために訪れた愛知県みよし市のMOVIX三好は予想以上に遠かった。前日に東京から名古屋入り。丸の内駅から地下鉄鶴舞線に乗って、終点の赤池まで向かう。赤池駅はロータリーにマックしかない、という話を、名古屋居住が長いYCAM音響の中上さんからここに来る前に聞いていたのだが本当にそうだった。いかにもな郊外のマックで中高生たちがわんさか。さらに駅ロータリーからバスに乗り換える。バスが走り出すと割と駅近隣に新しめのショッピングモールを通過、その中にも某大手シネコンの看板が見える。どうも最近はこちらに三好のお客さんは吸い込まれているようだ。

 
 
渋滞もあり赤池駅から35分ぐらい住宅街を延々走ってやっと到着。
イオン前のバス停は、イオンの敷地の外。三好のイオンはかなり芳ばしい



事前に乗り換え案内で、MOVIX三好のあるイオンまでの道のりを調べようとしたのだが、赤池駅や豊田市駅までは当然ルートが出るものの、そこから先はどうしても判然としない。結局あいちトリエンナーレ事務局のインテリジェンス溢れる原田さんから、赤池からイオンまでのバスの時刻表がPDFで送られてきたことでやっとたどり着けると思えた。基本自家用車以外のお客さんを想定されていない典型的な郊外型のショッピングモール。
爆音映画祭 in MOVIX三好では、早起きして午前9時代上映の爆音『レ・ミゼラブル』を見ようとしたが全く気力が追いつかず、結局次の『グレイテスト・ショーマン』を、YCAM爆音との比較も兼ねて見てみることに。見事に地元の人たちだけで満席になっていた。全国シネコンで展開している爆音の音はバウスに近い。中音域が太く安定している。一緒にみていた女子たちが「思っていたほど爆音じゃなかったね」と言い合っていたが、いや実は相当音量は出ている。気づかせないほどに馴染んでいる。バウスで『レディ・イン・ザ ・ウォーター』を見たときのことを思い出した。
帰り、赤池駅まで帰るバスの中で、夏に一度だけロサンゼルスに行ったことを思い出した。ロサンゼルスは、横に横に広がっていった広大な地方都市という印象。泊まっていたサンタモニカのビーチ近くのホテルまでは地下鉄は通っていない。完全な車社会。名古屋とロサンゼルスの重なるところから、何かあいちトリエンナーレ映像プログラムの企画のヒントは出てくるだろうか。





杉原永純(すぎはら・えいじゅん)
山口情報芸術センター[YCAM]シネマ担当。2014年3月までオーディトリウム渋谷番組編成。YCAMでは「YCAMシネマ」や「YCAM爆音映画祭」など映画上映プログラムを担当する他、映画製作プロジェクト「YCAM Film Factory」を手掛け、『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』(柴田剛監督)、『映画 潜行一千里』(向山正洋監督)、『ブランク』(染谷将太監督)、『ワイルドツアー』(三宅唱監督)をプロデュース。空族の「潜行一千里」、三宅監督の「ワールドツアー」といったインスタレーション展も企画・制作。また、「あいちトリエンナーレ2019」の映像プログラム・キュレーターを務める。

関連記事

樋口泰人の妄想映画日記 その79

2018年09月号

宝ヶ池の沈まぬ亀 第27回 (青山真治)

2018年09月号

映画は心意気だと思うんです。 第1回 (冨田翔子)

2018年09月号

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2018年10月号

【10月号更新記事】 ・《10/20更新》樋口泰人の「妄想映画日記」その8...

2018年08月号

【8月号更新記事】 ・《8/29更新》青山真治さんの「宝ヶ池の沈まぬ亀」第...

2018年07月号

【7月号更新記事】 ・《7/30更新》杉原永純さんの「YCAM繁盛記」第4...