boidマガジン

2018年10月号

インターラボで仕事中 第2回 (今野恵菜)

2018年10月05日 09:04 by boid

山口情報芸術センター[YCAM]の映像エンジニア/デバイス・エンジニア、今野恵菜さんによる「インターラボで仕事中」。第2回目は7月、8月の活動記です。YCAMでの展示に関わる作業や、新たに学び始めた映写についての気づきとは。


写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]



またたく間に夏が終わりました
大分遅れてしまっているが、忙しくて常に体がびっくりしていた7月〜8月の活動について振り返りたい。

 

 7月「YCAM恒例 夏の陣 その2 怒涛のオープンラッシュ」


「メディアアートの輪廻転生」は、私がYCAMに勤め始めて以降、もっともたくさんのお客さんから「あれは一体何ですか?」と質問された展示だ。

「メディアアートの輪廻転生」特設ページ


大きな山は、ちょっとしたランドマークとして職員や施設利用者に活用され始めている
撮影:山中慎太郎(Qsyum!)
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]



巨大な山型の古墳の中には、メディアアートという言葉を世に知らしめた作家達の「死んでしまった作品」が埋葬されている。鑑賞者は古墳のなかで、作品説明や作家から寄せられたコメントから構成される音声ガイドを聞きながら、「死んでしまった作品」を鑑賞し、思いを馳せることができる。


音声ガイドを再生できるメディアは多種多様で、選択肢の中には最新のiPod touchから、ポータブルCDプレーヤー、
カセットデッキなどもある。バラバラのメディアで音声ガイドを聞く鑑賞者の姿は、なかなか異様だ。
撮影:山中慎太郎(Qsyum!)
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]




会場となっているYCAMホワイエは、たくさんの作家から寄せられた「作品の死に関するアンケート」への返答を
コラージュしたサインで彩られている。
撮影:山中慎太郎(Qsyum!)
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]



オープン前のインストール期間など、山の近くを通りかかると2日に1度くらいのペースで質問された。確かに、自分が図書館を利用する側だったら相当気になるだろう(YCAMの建物の中には大きな図書館があり、毎日たくさんの人が利用している)。ちなみに私は前述の質問に、いつも「あれはお墓です。アート作品が埋葬されてます」と答えている。すると質問をした方は大体「そうなんですね〜」と納得顔をするのだ。不思議なことに「この人は一体何を言っているんだろう…」という顔はあまりされない。これは、「大きい山 = なにか敬わなければならないもののイメージ = お墓」というイメージの連鎖が、想像以上に我々の中に染み込んでいるからかもしれない。

この展示において重要なことの一つに「普通であること」が挙げられる、と私は考えている。

公共施設のなかに巨大な山が作られている状況がすでに普通ではないが 、この作品を鑑賞するという行為は「墓参り」と言い換えることができる。墓に実際に足を運び、「ああ生前はこんな感じだったんだな」と思いを馳せ、なんとなく少し寂しい気持ちになって墓を後にする。私自身はすっかりサボりがちだが、これは一般的な墓参りの一連の流れであろう。ただ「メディアアートの輪廻転生」の場合、そこに埋葬されているのは故人ではなく、有機物ですらない、人工的な「作品」だ。彼らの死は、彼らの生みの親である作家以外に判断することはできず、生き物の生死のように割り切ることのできない曖昧なものだ。


この曖昧なものを巡る行為を「墓参り」と表することで、奇妙なほど受け入れやすく、「普通の行為」になるのだ。
撮影:山中慎太郎(Qsyum!)
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]



テクニカル面では、「音声ガイド制作」が非常に興味深かった。ちょうど昨年のサンフランシスコでの研修中に、何度かSFMoMAを訪れる機会があり、それをきっかけに「作品と音声ガイドの関係」を考えていたタイミングだったことが大きいだろう。
SFMoMAはたくさんの作品を展示しており、また定期的な企画展もとても面白い素敵な美術館なのだが、なかでも音声ガイドは印象的だった。通常、音声ガイドといえば、作品の作られた背景や特性の説明、作家のコメントなどが主で、作品の素晴らしさや社会的意義を、展示する側が鑑賞者に伝えるために使われていることが多いように思う。しかしSFMoMAでは、例えば「ある映画監督が写真展示のフロア全体を"自分がどんな順番で作品を観たか"を中心に紹介する」「コメディアンとキュレーターが会話形式で作品を紹介する(コメディアンが作品を茶化し、キュレーターがそれをなだめる)」といった内容など、「作品を見つめる視点の多様さ」を伝えるようなコンテンツが多数用意されていた。鑑賞者はそれらを選び、様々な人の視点に寄り添いながら作品を鑑賞することができる。

他にも様々な音声ガイドコンテンツの制作に取り組んでいるようである。アプリを事前にダウンロードしておけば無料で聞ける点も嬉しい。
SFMoMA

今回の「メディアアートの輪廻転生」では、音声ガイド用に様々な再生メディアを用意した。これはSFMoMAとはまた別だが、「メディア同士の違い」や「メディアと身体性」について考えることのできる、これはこれで大変興味深いアプローチである。「音声ガイド」の可能性は、まだまだ広がりを見せるのかもしれない。

 

「映写上映修行中」


YCAMのテクニカルスタッフは、インターラボのメンバーとしてのリサーチや開発業務の他に、照明、音響などのオペレーションスタッフとしての責務を有している。私も映像担当として、舞台の映像オペやプロジェクターの配置、展示時のディスプレイの設置や作品用映像システムの管理などを行っていが、この度、「映画のフィルム映写」について学ぶ必要が出てきた。そのため、今年の7月頃から他業務の合間を縫って映写の技術を教えていただいている。

フィルム上映という仕事に対する私のイメージは「ニュー・シネマ・パラダイス」「イングロリアス・バスターズ」くらいのものだった。強いて言えば「フィルムはよく燃える」ということは、2つの映画から教わったかもしれない。メカメカしい機械を巧みに操る様はかっこいいと感じていたが、一体全体どんなものかはさっぱりわかっていなかった。
最初に驚いたのは、フィルムにおける「編集」の考え方だ。少し考えれば分かることではあるのだが、やっぱり実際に「映像として見るもの」の素材(データ)を、物理的に切ったり貼ったりしている様子を見ると「本当にそんなことしていいのか!というか、昔はこういう方法しかなかったのか!」と呆気にとられてしまう。自分がAdobeのPremiereや、AppleのiMovieなどの映像編集ソフトを駆使して行っている編集行為の原型であり、と同時に、それらのソフトで扱うようなデジタルなデータとまった違い、データ(素材)自体が切れたり、ちぎれたり、燃えたりする不可逆性を持っている。共通点と同時に存在するあまりにも大きな違いにクラクラした。


メカメカしい投影機。ここに実際に手をつっこんでフィルムをセットする。
技術的にブラックボックスな部分がほぼ無いように感じる



技師の方が減っている現状や、どうしても完全な状態を維持し続けることができないというフィルムの性質からも、年々映画のフィルム上映を行う映画館は減っていると聞く。その状況に対して意見を言うことは難しいが、ただ、YCAMにいることで、最新のVRなどの映像技術をリサーチしつつ、同時にフィルム映写の技術を学ぶことができる、貴重な状況に身を置けていると言えるだろう。新しい技術を学び、また一つ新しい「視点」を得ることができた喜びも大きい。だた、『できた』と書いてしまったが、フィルム上映の勉強は目下絶賛進行中である。

 

8月「YCAM恒例 夏の陣 その3 夏休みシーズン本番のYCAM」


7月の時間と力のほとんどすべてを『YCAM15周年期間のオープン』に注ぎ込んだ我々にとって、8月という期間は、7月にオープンした展示と鑑賞者/体験者がどのような関係性を築いているか、改善すべき部分はないかということを考え、必要があればアップデートを行うことも重要な業務のひとつ である。中でも毎年恒例企画であるコロガルシリーズ(YCAMのつくるキッズ向けのプレイグラウンド)のなかで行われる「こどもあそび場ミーティング」は、そのアップデート自体がイベントとなったものだ。

過去のコロガルシリーズや現在オープンしている「コロガル公園コモンズ」の詳細は、公式ページ前回の記事をご確認頂きたい。


今回の「こどもあそび場ミーティング」でも、様々なアイデアがこどもたちから提案された。
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]



中でも印象的だったのは、「すごろく遊び」というアイデアだ。今回のコロガル公園コモンズには、慶応大学鳴川研究室の皆さんと一緒に開発した「モジュール式ブロック」が一部使用されている。バラバラにすることのできる16個のブロックをつなぎ替えることで、その場所(空間)の形をダイナミックに変えることができる仕掛けだ。このブロックのちょうど真上には、プロジェクターが設置されており、様々な映像コンテンツをこのブロックに投影することができるようにもなっている。参加者の一人が、今回のこどもあそび場ミーティングの冒頭で行った「この公園で使われている技術の説明」からヒントを得て、「ブロック一つ一つを双六のマスに見立てて双六をつくる」というアイデアを提案してくれたのだ。


手前に写っているのが通称鳴川ブロック。様々な“坂”を組み合わせて新しい地面を形成することができる
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]



ちなみに、コロガル公園コモンズのシステムはTouchDesignerというビジュアルプログラミング環境で作られている。件のブロックの上には、プロジェクターの他にも特定のものの動きをトラックすることのできるOptitrackというモーションキャプチャーシステム用のカメラが設置されており、指定のボールや指定の帽子(YCAMお手製のプロトタイプでキッチン用のザルで出来ている)をかぶった人の位置をセンシングできる仕組みも備わっている。

アイデアのプレゼンを受けて、私たちスタッフはミーティング終了後、さっそくアップデートにとりかかった。この「すごろく遊び」は私の担当アップデートとなり、いろいろ思案した結果、「スタート地点、ゴール地点、方向を示す矢印」をブロック一つ一つに投影することとした。スタート地点とゴール地点は場所の指定があり、かつ「双六のコマの指示(一回休み、や2マス戻る、など)は自分たちで考えたい」というアイデアだったので、「スタートとゴールを抜いたら14コマ。ちょっと少なすぎるような気がするな…」と勝手に気を効かせた私は、進むべき方向を指し示す矢印が、一定時間で切り替わるような仕組みをインストールしてみた。

アップデート終了後、コロガル公園コモンズが再オープンし、アイデアのオリジネーターである参加者が遊びに来てくれた際、興味深い意見をもらった。それは「矢印の向きが変わるといろいろ遊びが考えにくい」というものだ。「あ!やってしまった…」と私は思った。これは、定番のミス「やりすぎ」である。往々にして、開発がうまく進めば進むほど、開発すること自体が楽しくなってくるというのは、何かを作る人にとっては経験のあることではないだろうか。これは基本的には良いことなのだが、一方で「作り始めたときのスタート地点」を忘れやすくなる危険な状態とも言えよう。私は急いで切り替わる機能を消去し、後日「コースを変更したいという要望があれば変更できる」ような状態に切り替えた。初心を思い出させてくれた、良い夏の思い出である。


"すごろく"が実際に使用されている様子
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]



この他にも、「WILD BUNCH FEST. 2018」という音楽フェスへの出張ミニ展示、YCAM Film Factory vol.4という企画の中で制作された「ワイルドツアー」のワールドプレミアも行ったYCAMの恒例行事「真夏の夜の星空上映会」、これまたYCAM夏の風物詩である「YCAM爆音映画祭」と、イベントは目白押しだ。特に今年の爆音映画祭はYCAM過去最長、かつ楽しくもチャレンジングな映画のラインナップで、訪れてくれたお客様だけでなくYCAMスタッフにも嬉しいお祭りだった。「爆音が終わると夏が終わる」これはYCAMスタッフ内の通説だ。爆音上映を終えて開場だったスタジオAの外に出てみると、あたりには秋の気配が立ち込めていたのだ。



今野恵菜(こんの・けいな)
山口情報芸術センター [YCAM] デバイス/映像エンジニアリング、R&D担当。専門分野はHCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)など。2018年3月にサンフランシスコの科学館「Exploratorium」での研修を終えて、YCAMでの仕事を再開。

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