青山真治さんによる日付のない日記「宝ヶ池の沈まぬ亀」第9回です。本連載タイトルの由来ともなった京都の"宝ヶ池からさらに山ひとつ越えた辺り”に仮寓を構えて1年、この春、その仮寓を去ることに。戻って来た元の栖の地下室で記されるのは、ジャン=リュック・ゴダール『コケティッシュな女』の3つのショット、『A LIFE~愛しき人~』の浅野忠信と『彼岸花』の佐分利信、そして夏目漱石のこと等――
文=青山真治
9、料峭こそわが吉兆
あまりの急逝にしばし思いつきさえしないもののその後誰かから身代わりということを言われたのでこれが真実かどうかは問わぬままにこの考えを鵜呑みにすることにした。ウブウブは同病である私の身代わりとして死んだ、然り、であれば私はいま簡単に死ぬわけにはいかぬはずで、といって俄然やる気を見せる余力もあるでなし、ただ粛々と生きようとするらしく見える方角へ進んでいくのみ。それにしても人間ではないという意味での動物からあれほどあっけなく命を奪う糖尿病とはいったい、と心胆寒からしめるものがある。なるほど人間も同様かもしれないがそれでもあのあっけなさはすんなり納得しうるようなものではなく、ただ棒立ちに居竦まってしまうばかり。
2018年12月号
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