
文=渥美喜子
セシル・B・デミル監督『十戒』(56年)、アルフレッド・ヒッチコック監督『知りすぎていた男』(56年)『鳥』(63年)から、スティーブン・スピルバーグ監督『太陽の帝国』(88年)、フランシスコ・フォード・コッポラ監督『ゴッドファーザーPART Ⅲ』(90年)など、「ハリウッドを代表する」としか表現しようのない映画の数々に、絵コンテ作家として活躍したハロルドと、それらの映画にリサーチャー(映画のための調べものを手がける仕事)として貢献したリリアン、まさに「映画を支えた」偉大な夫婦のドキュメンタリー。
と書きながら、私自身、この『ハロルドとリリアン』を見るまで、ふたりの名前はおろか、存在すら知らなかった。実際、ふたりの名前がこれらの作品にクレジットされることはほとんどなかったようで、じゃあ知らなくて当然か、と最初は思っていた。
しかし、劇中に次々と登場する名作の名シーンに「あ、これ知ってる!」と思ったそのすべてが、ハロルドの手によって描かれたコンテ通りのショットだったりするので、だんだんと、自分はもしかして映画の何もわかってなかったんじゃないかと不安になってくる。そのくらい、ハロルドの絵コンテは、すでに映画なのだ(この絵コンテだけでも何時間でも見ていられそうなクオリティーだ)。
そして、映画の時代背景を表現する上で必要となる精密なリサーチのために自分で図書館まで作ってしまったリリアン。
この作品を通して、映画というものがいかに名のない職人さんたちの仕事によって作られているのかが、見えてくる。ハロルドはのちにロバート・ワイズ監督『スター・トレック』(79年)のプロダクション・デザイナーとしてアカデミー賞にノミネートされるが、それでもまだまだ足りない、と思ってしまう。
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