青山真治さんによる連載「宝ヶ池の沈まぬ亀」第15回は、猛暑のため普段の仕事場である“地下帝国”を脱出しリビングに建設した“真夏の砦”、そして伊豆の山中にある“第二砦”に籠り仕事に励んだ8月から、堀禎一監督の旧作を見直し『天竜区奥領家大沢 別所製茶工場』についての原稿をしたためた9月上旬にかけての記録です。

文・写真=青山真治
15、太陽フレアと籠城の日々
今夏は江崎君が面白い。沖縄・北方担当大臣の江崎君である。これは所謂名古屋萬歳の伝統に連なる人だろう。いまや貴重な酔芸に加え、シニカルきわまるメモ読み芸が痛快。
某日、女優帰京の翌日には大掃除が待っており、床の拭き掃除がなかなかの重労働。結果『ツイン・ピークス The Return』第四話を見終えた段階で疲労により気絶、『居酒屋ふじ』見のがす。女優に対する猫たちの反応(過剰なつきまとい)にあらためて絶句。何日一緒にいても私にはほとんど見向きしなかったのに。さらに翌日、長年に亘る抵抗も事ここに及んで(地下では耐え難き猛暑)退け、ついにニトリにて小ぶりの座椅子を贖い、リビングに導入。わが真夏の砦をここに建設す。そのちっぽけさが実によい。『直虎』、この直虎と小野但馬の関係は囲碁を打つやりとりからしても、数年前の篤姫と小松帯刀の戦国版リメイクなのは誰の目にも明らかだが、危機的状況がこちらの方が深刻であるせいで「結ばれないカップル」の悲劇性も重厚になっている。今夜は柳楽君が出なかったのが残念。敗戦記念日が近づくのでそれらしき番組をNHKがやる。それで思案するのは、映画はたんに歴史的な事実を描くのではなく人間は何をしうるかを描くべきで、そのためには遺族がいるからとかいう道義的な問題をフィクションという枷によって解放し実在の人物さえも正面から捉えるべきではないか、という可能性だった。石井四郎にもカーチス・ルメイにも家族はいるだろうし、いまも子孫はあるだろうが、人間としての限界を超えた行為に及んだ特異な例として、はっきりと語られるべきではないか。でなければ人間の重要な側面を語り損なう気がする。

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