boidマガジン

2017年09月号 vol.2

映画川 『Le Concours』 (大寺眞輔)

2017年09月16日 04:17 by boid

日本未公開映画の秀作を紹介してくれる大寺眞輔さんが今回取り上げるのはドキュメンタリー映画『Le Concours』(クレール・シモン監督)です。本作で記録される“コンクール”とは、フランス国立高等映画学校=フェミス(La Fémis)の入学選考。超難関映画学校の選考プロセスが持つ卓越した機能と問題点の双方をあぶり出しているというこの作品は、映画学校やフランス映画界だけに留まらない問題を提起しているようです。



映画学校の罪


文=大寺眞輔


 クレール・シモンの『Le Concours』(コンクール、競争)は、今年きわめて大きな話題を呼んだ作品だ。フランスで最も権威ある映画学校フェミスの入学選考プロセスにカメラを持ち込み、ワイズマン的観察スタイルによってそのシステムを浮き彫りにしたドキュメンタリー作品である。話題になったのは、そこで明らかにされるシステムの綻びと保守性こそが「この30年間にわたって映画史に残る新たな作家を一人も生み出すことができなかった」フランス映画界の凋落ぶりの根本原因であると、アメリカの著名な映画批評家リチャード・ブロディが「The New Yorker」の記事で指摘したからだ。ブロディはゴダールやトリュフォーなどヌーヴェル・ヴァーグの映画作家たちをとりわけ愛し、彼らの作品を精緻に分析した評論で広く知られている。その功績によってフランスからシュヴァリエの称号も得たほどだ。それだけに、この記事は国際的に大きな話題を呼んだ。もちろん、ブロディの指摘はフランスの映画批評家たちから様々な反論を受けた。そこでは、現在のフランス映画は本当に停滞してしまったのかという問いが論争の中心となっていた。しかし、改めて議論の発火点である『Le Concours』を実際に鑑賞すると、この作品が如何に見事にフランス映画界、ないしフェミスの選考プロセスに内在する卓越したシステムの機能ぶりと、同時にそこに含まれる問題点の双方に等しく光を当てているかに気付かされる。映画作りに関心のある者であれば、直ちにこの作品を鑑賞すべきだろう。あるいは少なくとも、日本の全ての映画学校でこの作品が上映されるべきだと私は思う。確かに、この作品で描かれるフェミスの問題点の幾つかは、日本において顕著に存在するものではないだろう。だが同時に、その問題点を併発させるシステムの見事さもまた、ここには存在していないように見えるからである。

 1955年生まれのクレール・シモンは、はじめアルジェリアで人類学を学んだ。そこで彼女は、モハメッド・ラクダル=ハミナの1975年作品『小さな火の歴史』(『タクシードライバー』の前年にカンヌ国際映画祭パルムドールを獲得したこの作品は、いまだ日本公開されていない)の編集を手伝うことで映画界に入ることとなった。監督として活動を始めるのは90年代に入ってからで、現在までにドキュメンタリーとフィクションを合わせ十本以上の映画を製作している。日本公開された作品は一本もないが、現在アンスティチュ・フランセで開催中のドキュメンタリー特集の中で彼女の『夢が作られる森』が上映される。また、アメリカのコロンビアで開催されるTrue/False映画祭でそのキャリア全体に対する栄誉賞が与えられるなど、今年になってようやくその名声がフランス国境を超え、世界的に評価されつつあるところだ。画家やアーティスト、哲学者を多数輩出した豊かな文化的素養を持つ家系に育ったシモンは、自らカメラを手に撮影するそのドキュメンタリー作品を絵画や小説になぞらえることを好む。アメリカの卓越したドキュメンタリー作家ロス・マケルウィーと親しく、彼同様、近親者へと注がれる親密な眼差しに特徴がある。アフリカでキャリアをスタートさせ、女性であり、しかもドキュメンタリー作家であるという自らのマイナー性に鋭く自覚的であり、また人類学者としての側面においてはジャン・ルーシュに大きな敬意を抱いている。シモンは自らフェミスで教鞭を執っていた時期もあるが、『Le Concours』製作に当たっては、「税金で運営される映画学校は、その内部をカメラの前から隠す正当な理由を持たない」とフェミス学長に対して公に正面から主張することで撮影許可を得たとのことである。

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