boidマガジン

2017年09月号 vol.2

ヒスロム日記 第18回

2017年09月15日 18:38 by boid

ヒスロムの活動を写真、テキスト、映像で記録するヒスロム日記。久しぶりの更新は8月より滞在するポーランドでワルシャワからバルト海までヴィスワ川を500kmの船旅で行く「ポーランド・ジャーニー・イン・ヴィスワ・リバー・フロム・ワルシャワ・トゥ・グダニスク(前編)」をお届けします。2日目にして船底に穴が開きエンジン水没といったトラブルに遭いながらもヴィスワ川や出会った人々について書いてくれています。映像とともにご覧ください。



ポーランド・ジャーニー・イン・ヴィスワ・リバー・フロム・ワルシャワ・トゥ・グダニスク(前編)


文・記録=ヒスロム



自分たちの生活している、普段通っている場所を離れ、新しい場所で限られた時間のなか、また新たな物事を掘りおこし発見し、人前で発表することに息苦しさを感じ、なかなか前に進めずにいる。けれど、去年の11月、ワルシャワ近郊の町ウルススで出会った、船を作っている人たちのこと(ヒスロム日記 第14回)が頭から離れず、またどうしてもたずねたい、彼らといっしょにからだを動かしたい、という想いが強くあって、今回のプロジェクトは始まった。そんな気持ちの変化は、ここ数年、梅田さんとやってる船のプロジェクト(「7つの船」)が大きく後押ししてくれている。最初は仕事の親方が船を持ってるということから参加し、最近では何度も船をかりて、梅田さんと大阪の川を探検している。船からみんなで見る街の景色、水面が切れる音を聴き、空中へ飛び上がる魚や空をゆき交う鳥の群れを眺め、陸にいる人たちと手を振り交信する。みんな1つの船に乗りながら、過ぎてゆく時間や風景を共に経験する。そういえば、彼らは今年の5月に出航するって言ってたな。



ワルシャワからバルト海まではヴィスワ川でつながっている。およそ500キロの道のりは、だいたい大阪から東京といっしょかな。全長はもっと長くて900キロ超。そんな長い川なんて、日本にはないですよね。もしあれば、大阪から仙台まで船で北上したりして。西につき進むのもいいな。船乗り人口はたくさん増えて、みんな旅行するのに船を使ったり、仕事に行くのに船を使ったり。手紙、荷物や動物、野菜や果物、いろんなものが行き来する。こんなにたくさんの高速道路網はなく、低速水路網として活用されるんじゃないか。などなど、いろんな想像が頭の中をかけ巡る。船で旅したいと思いついたのは、彼らは作った船で海に出るって言うもんだから。キュレータのアンナとアシスタントのドミニクにお願いしてレンタルボート屋さんをあたってもらうも、どこも料金がベラボウに高く困っていたなか、助けてくれたのはキャピタンだった。彼はウルススの船プロジェクトのリーダーでもあり、セイリングの先生でもある。彼の教え子であり仕事仲間のヴィテックは話にのってくれた様子で、特別に安く船を貸してくれることになった。この船、オメガはセイリングの典型的な小さな船です。セイリングとは帆を張り、風を受けて水上を滑走することです。このオメガに装着されるエンジンは2〜5馬力が主流で、常時使用はせず、あくまでもセイリングを優先します。船底から垂直に下りた竜骨は、滑走の際に船の横滑りを減少させ、安定性を高めます。船尾からのびた舵棒を左右に振ることで船の進行方向を決定します。右、プラヴォ。左、レヴォ。直進、プロスト。船首、ジュップ。船尾、ルファ。甲板、ポクワデック。右舷、プラヴァブルタ。左舷、レヴァブルタ。水門、シュルーザ。おい、見てみなよ、とキャピタン。テレビや映画でしかみたことのないセレブなビキニお姉さんが、目の前を通りすぎる。あー、いっしょに記念写真撮ってくださいって言えばよかったな。ヴィッテックは大きなビニールハウスの中からオメガボートを1つ選び、彼のポーランド語指示を聞きながら、みんなでトレーラーに載せる。オメガ、ナンバ−2。そして車で引っ張ってゼグジェの湖畔から着水させる。船は水の浮力によって、着水と同時に水面に浮かぶ。ヴィテックの慣れた手つき。彼の同僚ヤレックはエンジンのチェックをしてくれている。エンジンはまたべつの人が貸してくれたもので、エンジン・トウハツはメイド・イン・ジャパン、10馬力。


8月14日

晴天の中、たくさんの荷物を積み込んだ船はゆっくりと湖を横断していく。ヤレックは特に不安な顔も見せず、ヴィスワ川までの道のりを案内してくれる。あれ、ヤレックは英語話せないと思っていたけど、話せるんだな。日本では見たことのない標識を、ひとつひとつ丁寧に教えてくれる。あ、あれはアンナとの標識勉強会で言ってたやつだ。緑色したブイは左側に寄れ。赤い色したブイは右側に寄れ。ちゃんと標識を見て進まないとだめだよ。ちゃんと水面を見て進まないとだめだよ。ヴィスワ川のほとんどは自然のままに残っているの。だからちゃんと見てないと、突然大きな石にぶつかったり、岩礁に乗りあげたりするよ。それは本当に危険だから。特にこの時期は水位がとっても低いの。ヴィスワ川に出るジェラニ水門は水位0センチって報告があがってるわ、どうしましょ。それは船をジャンプさせたらいいんだ、とキャピタン。水門が開くと同時にスピードをあげて突っ切るんだ。サーフィンするように、波に乗って。そしたらクリアできるよ。そんなのこの子たちにはできないわ、とアンナ。心配ならヤレックにやってもらおう、とキャピタン。今日の難関は水門だ。行く先に少し不安を感じながらゼグジェ湖を出て、水路へ入っていく。

道幅はだんだんと狭くなり、自分たちの船がたてた波が川岸の葦を揺らす。ここが町のなかにあるとは思えないような、大きな木々に囲まれひっそりとした水路はとても落ち着く。ランニングマンやフィッシングマンがときどき木々のあいだから顔をだす。そのたびに速度を落とし、波をたてないように迂回する。でも誰ひとり魚が釣れている気配がしない。どんな魚が棲んでいるのだろう。釣れるのだろう。みんな伝説的な魚をねらっているのかな。水は濁っていて、水中の様子がわからない。ワニはいないって言ってたな。ピラニアはいないって言ってたな。なにが潜んでいるのかわからず、水のなかに入りたいと思えない。川幅は少し開けてリバーサイドには日光浴をしている若者がいる。カラフルなビーチパラソルを立て、日光浴をしているおばさんのビキニ姿は日本ではなかなか見れないな。景色はすっかり町のなかへと移り変わり、水門のなかに入っていく。来た道はぶ厚い鉄板でできた門で閉ざされ、どんどん水位が下がっていく。隣りにはグダニスクと書かれた倍以上もある船も停泊している。なんや、ジャンプしなくても全然いけるやん。すごく高い橋の上から、上裸のシュルーザマンがじっとこちらを眺めている。水位は下がりきり、目の前の門がゆっくりと開く。お先にどうぞ、と大きな船の船長さん。棒を立ててみると20センチもないんじゃないか。もしかして先に行けないんじゃないの、と思いながらエンジンを止めてパドリングでゆっくりと前に進む。そしたら大きな船がエンジンを始動させて追い越していく。あれ、いけるんや。今夜は水門を出たところでキャンプさせてもらうことに。夜、ごはんを食べているとなにか巨大な魚が顔を出したかと思うと、勢いよく飛び跳ねた。あいつがフィッシングマンたちのねらっている獲物かな。

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