boidマガジン

2018年01月号

Television Freak 第23回 (風元正)

2018年01月15日 16:42 by boid

家では常にテレビつけっぱなしの生活を送る編集者・風元正さんが、ドラマを中心としたさまざまな番組について縦横無尽に論じるTV時評「Television Freak」です。年末から年始にかけて記されたという今回の文章。そういうわけで登場するテレビ番組も『紅白歌合戦』、『孤独のグルメ 大晦日スペシャル』、『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦6』など年末年始の特別番組が中心です。加えて現在その最終章が放送中のドラマ『精霊の守り人』のことも。
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ひとまた/方々、方々へ散り


文・写真=風元正


 暮れから着手してみた。子供じみた試みだが、文章を書きながら年を越してみたい。

「何という車種なのかは知らないが、おそらくホンダの、小型ツー・ドアの、いかにも軽快といった車を路上に見かけるたびに、『パッション』を思い起こし、そしてあらたに『カルメンという名の女』を思い起こす。ゴムの車輪と砂利とがすれあう音の画面。東京の路上でたびたび見かける、ホンダの、小型ツー・ドアの車体から、ゴダールの画面を、ひいては画面のリズムと息とを、くりかえし復習することになる。ホンダの、小型ツー・ドアの車体をふり返るたびに、つくづく思う。
 ああ、映画を撮ることを諦めるのではなかった。」 (「ゴダールの帰還と映画的実践」)

 1983年、たぶん、『週刊漫画アクション』の「アクション・ジャーナル」に掲載されたコラムである。数人で回すバリケードの匂いのする匿名欄だったが、『本の雑誌』配本部隊の大学生であった私は、「映画」への情熱に憑かれた観念的アジビラ文体のこの書き手を断然ヒイキしていた。もうひとり、『優駿』誌「馬券に魅せられて」の古井由吉に惹かれていた。
 匿名の正体が稲川方人という詩人だと知ったのは、87年、ひょんなきっかけで同じ草野球チームに所属することになる少し前だったはずだ。五日市街道から阿佐ヶ谷に向かう路上での、はじめての稲川さんとの会話は、「きみ、何年生まれ?」「昭和36年です」「じゃあ、ホエールズの優勝を知らないんだ」。当時の文章は87年刊の『反感装置』という本に収められており、帯には「映画 野球 音楽 写真 都市/ジャンルを横断する/感受性の祝祭!」というコピーが踊っている。稲川方人に「祝祭」……、つまり、そういう時代だった。あれから、大洋ホエールズは横浜ベイスターズ、DeNAベイスターズと2度名前を変え、30年が経った。
 もとより、毒にも薬にもならぬ紋切り型が溢れるのは世の常で、嘆くほどのことでない。しかし、80年代には当然のごとく世に存在していた「いまこそ難解な虚構が求められなければならない」と苛立たしげに吐き捨てる稲川方人や、ずっと物語を記憶できない小説を書き続ける古井由吉のごとき抽象の魔を孕む散文家は、ついに現れなかった(中原昌也とリリー・フランキーは別格として)。「平成」年間とほぼ重なるこの歳月、私たちはいったい、何をしてきたのだろうか。少なくとも、私の「内面」は何の変化も成長も反省もなく、まったく懲りてもいないと、最近になってよくよく腑に落ちた。つまり、阿呆なだけだ。



 年末は、まず『SONGSスペシャル「松たか子」』にびっくり。歌の番組というより、『カルテット』で共演した高橋一生との対談がメインだった。2017年のドラマにおいて、高橋の《唐揚げレモン論争》シーンは屈指の名場面と思うが、同年初対面の2人が「お互い闇の深い同士」と10年の知己のように認め合う展開は、さすが女優界の「裏番長」松たか子様ならでは。妻は、「全然仲良くないんじゃない」と笑っていたが、「(松田)龍平君」と鍋をしている時に呼ばれなかった事を拗ねる顔はマジだった。ちなみに、「龍平君と一生君」が「メロンソーダ飲み放題」のカラオケボックスで歌っていたのはゆらゆら帝国の「空洞です」。ただ、「涙の数だけ今日が動き出す」という一行が含まれるNHKの朝ドラ主題歌「明日はどこから」はいい曲だし、高橋も毎朝出演するドラマ『わろてんか』の方もとりたてて論じたいタイプではないが、広瀬アリスもブレイクして塩梅がよろしい。8時からのドラマは、出演者の顔や歌が明るければ十分だ。視聴率がそれを立証している。松坂桃李の滑舌が悪くても、まあ、聞き取れなくてもいいセリフという事です。
 「一生君」の出ずっぱりはすさまじい。あの澄まし顔をずっと続けていて大丈夫か。紅白でも、今回の審査委員席は司会者の後方で、曲紹介のたびに高橋、吉岡里帆、ときどき「ひふみん」の顔が映り込むのが気になった。林真理子や宮本信子はほぼフレームの外だったから、「忖度」があったのだろう。NHKの選ぶ「2017年の顔3人」というわけだが、もう40年以上前、加藤一二三『振り飛車破り』を愛読した身としては落ち着かない。かつては『アウト×デラックス』の出演に谷川浩司元将棋連盟会長が「不快感」を示したという噂もあるが、藤井聡太4段の最初の対局者となって同年に現役引退という流れからの大ブレイクは、長年の将棋ファンでも読めない。ついでに入れ歯をして欲しい。吉岡里帆はとても可愛い。濡れた瞳に吸い込まれたい、とバカなことを言いたい。
 内村光良が紅白総合司会となり、ビートたけし、松本人志がシットしていたが、台本通りきっちりと番組を回し切った力量は目覚ましく、かつて書いた通り「ウッちゃんの時代」であることがまた示された。番組全体は破れ目が目立たず、四の五の難癖つけるのも野暮な素晴らしい出来だった。テレビ東京『年忘れにっぽんの歌』に視聴者が分散した、などという分析に反省せず、このままのスタイルで突き進んでもらいたい。五木ひろしの「夜空」に感動し、「やっぱり平尾昌晃だし」と頷いている私は消え去りつつある「昭和」の人間だが、それはそれで構わない。エレファントカシマシの宮本浩次やYOSHIKIだってもう50過ぎなのだ。還暦過ぎた桑田佳祐の「若い広場」も聴けて嬉しい。やっぱり、17年は『ひよっこ』の年だった。有村架純も大人の女優になった。



 テレビ東京を除き、民放の年末年始番組を見る力を失っており、ほぼNHKばかり見ていた。3年がかりの綾瀬はるか『精霊の守り人』シリーズは、もう少し注目されていい。ファンタジーを実写化するのは難しいし、ちゃんと追っていないと何をやっているかわからない欠点はあるとして、どちらも槍使いの名人役、綾瀬はるかの精悍な顔と白髪交じりの吉川晃司の成熟をずっと拝んでいられるのは愉しい。先見の明が讃えられていいカズオ・イシグロ原作『わたしを離さないで』(暗いがクオリティは高し)の不発から、アクション方向に活路を見出した綾瀬は、いよいよ女優界「表番長」の道を歩み始めたようだ。吉川は『素直になれなくて』での落ちぶれた元戦場カメラマン役が印象に残るものの、テレビドラマ出演歴は少なく珍しい。『精霊』で出番が減っても新春ドラマスペシャル『都庁爆破!』で長い手足を自在に扱いキレの鋭いアクションを披露していた。今や小林薫と並ぶ「いい男」であり、『精霊の守り人』のキャスト中では存在感を示す東出昌大や高良健吾がどこまで迫れるか、こちらの寿命が足りないかもしれない。
 1月2日に放映された三保松原の『ブラタモリ×鶴瓶の家族に乾杯』はやや期待外れだったが、タモリが鶴瓶を「偽善芸!」とツッ込んだのは痛快だった。鶴瓶の決して笑わぬ眼と人脈自慢は「闇」として鑑賞するものではない。対して、今回も遅刻に怒るタモリの潔癖は一貫している。『サブちゃんとキタサンブラック~知られざる日本一への道~』で有馬記念の蔭の立役者「調教名人」の障害ジョッキー黒岩悠の技を堪能し、これにてNHK強化週間は終了。



 昼酒を過ごして寝て深夜ひとり、まず、『孤独のグルメ 大晦日スペシャル~食べ納め!瀬戸内出張編~』を録画鑑賞。柄本明が店長の松山「さかな工房丸万」の「宇和島風鯛めし」にノックアウトされた。新鮮な鯛のずけを飯に載せて生卵をかける……なんてこったい! しかし、「東京より安い」と居合わせた客は言うものの、「あまぎ唐揚・あんかけ」「あなご澄まし汁」「かんぱち 炒り煮」を注文して、お財布はどうなのか。広島の「みっちゃん」で、牛肩の付け根部分の肉「コーネ」とキムラ緑子の女将さんが素早く出すシメのラーメンも見栄えがするし、井之頭五郎はいつにも増して食べる食べる。年越しソバは成田山新勝寺で生放送。つい、「週刊漫画アクション」は谷口ジローと大友克洋が読める雑誌だったのを思い出す。『気分はもう戦争』や『ショート・ピース』には、脳内でどんな風に変換されたのか分からないほど影響を受けた。
 そして、ついに『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦6~今年も出た出た!正月3時間スペシャル~』へ。〈演出/ヤラセ〉の気配が極めて少ない、清々しい番組だった。もし、大騒ぎして池を空っぽにして、何も出てこなかったら? 今回は、過去にロケした場所も振り返る総集的な内容で全貌を見通せたが、正直、退屈な部分もある。それでいいや、という開き直りがテレビ東京の真骨頂だろう。勢い余り、奈良県桜井市の箸墓古墳の隣りの池のロケが中止になったそうだが、まあ、そんなものか。トラブル含みの番組だろう。
 NPO法人のような番組である。池をきれいにし在来種を保護する、というコンセプトは行政の潮流に合うもので、実際、習志野市の市長が自ら依頼したり、環境大臣が出演したりしている。かつて、IT業界の人たちを取材した時、異口同音に「休日はNPO」と答えるのが興味深かったが、流動性が激しい今、人間関係を保つ鍵は「社会貢献」だろう。MCの田村淳も、母親にはじめて褒められた番組、とコメントしている。井の頭公園の「かいぼり」の感動の記憶も新しいが、「生物多様性」に対するアクションは60年代末までの「学生運動」と似たポジションを占めている気がしてならない。
 見ている側にとって主役は、水を抜く土木機械や、アリゲーターガー、ミシシッピアカガメ、ソウギョ、ブラックバス、ブルーギルなどの獰猛な外来種である。巨大に成長し、その存在感は都市の泡・平野ノラなどを楽々と凌駕している。ウシガエルには生まれ変わりたくない、とつくづく思う。対して在来種の方はスッポンですら愛らしい。オニヤンマのヤゴも貴重なのか、いや、そういえば5年くらい飛ぶ姿を見ていないぞ、と心は千々に乱れる。
 今後のメディアは、「社会貢献」との中間領域に娯楽を見出せるかどうか、アイディア合戦になってゆくだろう。キングコングの西野亮廣が「はれのひ」被害者に成人式をプレゼント、という企画が侮れない、とかそんな話である。『池の水ぜんぶ抜く』の斬新さには大拍手だが、伊集院光が「僕たちまでキレイになってゆく」と語る清潔さをどこまで保ってゆけるか。「テレビの未来」のひとつがここで問われている。



 しょうもない予感だけは当たり、書き始めた頃の気分は熱発から始まるドタバタでどこかへ飛んでしまった。星野仙一逝去のニュースに目頭が熱くなった自分に虚を突かれる。「鉄拳制裁」の熱血漢はあまり好きでなかったが、訃報により、自分より年上の人が野球選手だった日本、すなわち「アクション・ジャーナル」の頃を思い出してしまった。『長嶋さんと中居くん』でオンエアされた長嶋茂雄のリハビリ風景には、否が応でも2020年の酷暑・東京オリンピックを意識してしまう。妻の野村沙知代を失った野村克也のボサボサの髭面にも心打たれる。「山」でしか順位が動かない、高性能の選手が集まったツルツルした箱根駅伝は、だんだん退屈になってきた。「平成」の終わりを実感する。
 正月、日本映画チャンネルで特集放映していた伊丹十三映画を何本か酔眼で眺めた。どうしても、ゴツゴツした大江健三郎にあってツルツルした伊丹にないもの意識してしまう。宮本信子も、伊丹の不在により俳優としてようやく自由を獲得した。伊丹の影響を受けたものは、また同じ癖を抱えてしまうようだが、もはや、この差異線が理解されると期待はできまい。「アクション・ジャーナル」の稲川がどれだけ熱かったか、これもまた説明は不能である。平成年間、私はどこかで稲川の言う「気風の持続」を制度的に保証したいと妄想していたが、今はただただ、自分自身が「アクション・ジャーナル」であればいい。もとより、『詩と、人間の同意』に見る稲川の現在との大きな隔たりは承知として、たとえば、バウスシアターの最後に集った人々に、平日昼「丸ピカ」の完成形「爆音」の豪奢とかを示してみたい。
 タイトルは稲川方人の『封印』からの一行。一番好きな詩篇を引用しておく。


  (鳩を殺しましたか)

  化石のように眼は打破していた。
  雪の南湖球場を眺めていると、
  眼は化石のように晴れて、打破していた。
  小菅生の道をてんてんと、
  白いゴムの球が翔んでいく。
  私は車で来て、車で去ったから、
  私は歩かなかった。
  死ンデカラモ耳ハ聞コエマセンカ、
  ばっぱさん。
  大正五年か七年、耳は火に包まれました。
  私は歩かなかった。もう数十メートル、
  小菅生の道の白棚線の入口に、
  大正五年か七年の、
  リヤカーが一台、おまえは乗っていた。
  ばっぱさん、死んでからも
  耳は聞こえませんか。
  平安高校の白いユニフォームが
  雪の南湖球場に集まっていた。
  ばっぱさん、
  私は鳩を殺しましたか。

稲川方人『われらを生かしめる者はどこか』より
 
 





風元正(かぜもと・ただし)
1961年川西市生まれ。早稲田大学文学部日本史学科卒。週刊、月刊、単行本など、 活字仕事全般の周辺に携わり現在に至る。ありがちな中央線沿線居住者。吉本隆明の流儀に従い、家ではTVつけっぱなし生活を30年間続けている。土日はグリーンチャンネル視聴。

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