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2018年01月号

宝ヶ池の沈まぬ亀 第19回 (青山真治)

2018年01月24日 09:52 by boid

青山真治さんによる日付のない日記「宝ヶ池の沈まぬ亀」第19回は、2017年の映画ベストテンや紅白歌合戦に忘年会・新年会のことなど、年末年始ならではの内容となっているかと思いきや…そうは問屋が卸さない?
ともあれ本連載で継続的に触れられてきた最新小説の初稿がついに脱稿、その仮題も明かされます。
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文・写真=青山真治



19、衝撃!私に年末年始はなかった!

某日、下北沢ドンドコにて鄭龍進・松本勝との年末肉呑み。某編集A氏や弁護士俳優ガクちゃんなども合流。久しぶりにふんわりした宴会だった。最後にAから小説(『洞の中で』)の改訂稿について鋭くとっちめられたが。あえて書かなかったことをあえて書き加えた点については褒められた。いずれにせよ「言葉」についてここまで突きつめたものはしばらく自分には書けないと思う。
某日、恵比寿ウエスティンにて打合せ。もやもやした挙句、決定的な破局に至る。長い夢の時間の終わり。こういうときは完全に覇気が殺がれる。といっても別の可能性を探るシフトに移行したというだけの話。一晩かけてそう思い直した。
某日、紀伊國屋書店新宿本店にて、伊藤洋司氏とトーク。割と軽めの話から始まり『月の砂漠』『共喰い』のあるシーンのショット構造分析を経るなり急激に伊藤君の哲学談義(カントの「物自体」の話)にテンションが上昇、そこに繋げて最終的に映芸に書いた堀君についての試論にまつわる話に至る。現在書いている小説(仮題『HANQUAI』)とも直結した話題なので興味深く話ができた。『月の砂漠』のラスト前のカット割りは自分なりに七転八倒してでっちあげた箇所で、それについて語られたのは初めてだったゆえに、ちょっとたじろいだ。帰りに葛生、堀夫人をお誘いして打上げ。酒場で葛生が、あーっ、と指差すので振り返ると、モニター画面になぜかジョナス・メカスが。久方ぶりの夜の新宿だったので解散後「鳥立ち」に店主中島の顔を見に行く。そういえば行き道で偶然荒井さんに出会ったのだった。以前よりそれなりに顔色がよくて安堵。
某日、午後にドゥマゴにて大久保賢一氏と会合。なぜだか日本史談義に花が咲く。日暮れて矢作大将の西麻布での忘年会へ。肉旨し。二次会を経て二日連続の新宿、中原が一日店長をやっているはずのカンビアーレへ。本人はほぼ寝ていたが。新橋の女王、タカコとふたたびA氏、そしてなぜか開高健賞受賞者の畠山理仁氏が同行したのだった。
某日、その後数日間、疲れ切って正体不明の状態。もう夜中まで呑むということが不可能になっている。三日かけてどうにか立ち直ったのだが、前夜つい呑んだ缶ビールのせいで腹が決壊。やはりビールはダメだ。

一応SNSに発表したので、ここにも。

2017年度ベストテン
1、散歩する侵略者
2、イスマエルの亡霊たち
3、パターソン
4、ダンケルク
5、マリアンヌ
6、アウトレイジ 最終章
7、夏の娘たち~ひめごと~
8、ローガン
9、ゴールド
10、エル
次点 パーソナル・ショッパー

脚本賞 アルノー・デプレシャン
監督賞 クリストファー・ノーラン
男優賞 浅野忠信(『幼な子われらに生れ』)
女優賞 マリオン・コティヤール(『イスマエルの亡霊たち』『マリアンヌ』)
テレビドラマ部門グランプリ 『ツイン・ピークス The Return』

〈総評〉
まったくロクでもない人間が「個人」などと言いだすと最悪の結果しか現れないことが実証された一年であった。ここに並べさせてもらった映画たちはことごとくそのような迂闊な人間主義に徹底的に抗している。これまで一切評価してこなかったノーランの功績は「個人」など描かなくても映画はじゅうぶん映画たりえることを(おそらくは図らずも)実証してしまったことだ。そしてその対極に(おそらくは図らずも)位置してしまったのがアルノーであり、マチューであり、マリオン・コティヤールである。この対称が今年にとって麗しい姿だった。つまり、まっとうな人間による「個人」の尊重がこれほど輝いて見えたことも稀有な一年でもあった。堀禎一との再会が最も如実にそのことを私の内部で物語っている。さらにこれらの事実を統合的に表したのが、テレビドラマ『A LIFE』『刑事ゆがみ』と連続してこの国で実現したことのない、見事すぎる「開かれた演技」を見せてくれた浅野忠信であり、『散歩する侵略者』の松田龍平であり長澤まさみであり長谷川博己であった。在日米人デイブ某の「日本の俳優はヘタ」という我慢ならないデマゴギーについてSNSに書き殴ったことがあるが、ヘタなのは演出家(それならゴマンといるだろう)であって日本の俳優は誰でも、たとえばライアン・ゴスリングごときより百倍「うまい」のだとあらためて告知しておく。むしろ彼の国でこそアダム・ドライバーやマシュー・マコノヒーが例外的存在となりつつあるだろう。リンチと組むカイル・マクラクランのような天才は二度と現れないだろう、残念ながら。25年待てれば話は別だが。

某日、ボロボロながら何とか立ち上がり、とうとう新作の打合せ。セカンド助監督の熊野君、サードの井上君、なかなかの周到さ。こちらも乗り遅れまいと喋りつづける。やがて撮影の中島美緒と録音の菊池御大が登場、話は細かいところまで入っていく。齋藤プロデューサーが蕎麦の出前を取ってくれ、みんなで夕食(胃弱の私は辞退)。夜も更けた頃、ナイターのロケハン帰りの美術・清水剛登場。より具体的な問題を掘り下げる。帰宅時にはさらに疲れ切って、これで完走できるのかと自分の体力のなさを痛感。
某日、昼間に銀行作業を終わらせ、拙宅に招いた妻の友人たちと鍋。約一か月音楽絶ちをしていたが、ここでようやく細野晴臣先生の新譜『Vu Ja De』を(パーティDJとして)聴く。偉大なる黄金のワンパターン=Happy End。あっと驚く二枚組。中に「ユリイカ」なる曲があり、大変びびる。続いてスヌークス・イーグリンのスタジオ盤。ニューオリンズの街角の、盲目のファンクギタリスト。いずれこの人についてはしっかり研究したい。友人たちとの会話は怪談を含めつついつまでもやまず、午前三時過ぎに解散。やっぱり翌日はまるきり使い物にならず。
某日、気を取り直し、朝六時から(中断を挟みつつも)夕方四時まで集中的に書いた。十枚を超えたあたりでさすがに萎えるのだが。夜、火野正平『にっぽん縦断 こころ旅』を見ていて、終わりに火野さんに今年分終了と告げられ、愕然。種子島の海岸の岩屋の絶景を背景に、明日からの寂しさが思いやられる。翌日、再放送を見て来春の放送予告に喜ぶも、そのルートにさらに愕然。これが何故かは秘密。
某日、またしてもPCを叩く指が止まりかけ、というのもいきなり「この十年は無駄であった」という被害妄想に陥ったからだが、無駄であろうとなかろうと時間は過ぎ去るものであると日々理解しつつ生きているはずなのにこのていたらく。憤然として何年振りかヴェンダース『ことの次第』を見直す。ポルトガルの荒れ野で映画を撮りたいと強い願いが再燃するばかり。あと、ロスのキャンピングカーのリアウインドウの外に思い切りやられた。ただぼんやり走っているだけで映画は映画になると教えられたのはこの映画だったが、にもかかわらずその慰めをいくら受け容れようとしても「間に合わなかった」という思いばかりが強く残る。私はその特権を享受するに間に合わなかった。しかもあれはアメリカなのであり、これでOKなのはこの映画一回こっきりなのだから仕方ない。なおかついくら考えても一文も書けないことに変わりはない。せめてもの慰めにステーキとか寿司とか、旨いものでも食いたいところだが、とっくに街は眠っている。
某日、気を取り直してさらに黙々と書き続ける。ところがどうしても必要な「最後の資料」がない。買い忘れているというか、金がなくて買えなかったのだが。それが届くのを待つジリジリとした時間。それなしでも書けるところを書く、昔のVシネのスケジュール的に。腹も減る。『こころ旅』も『五時夢』も年末でお休み。イライラ。これまで見てなかった朝ドラ『わろてんか』にとうとう凪子はんこと京都造形・辻凪子登場。「爆弾高気圧女優」というキャッチを考えてみたが、なんというか画面内圧力が凄い。ひとり3Dか。
某日、まあおれの勘に狂いはないな、というハプニングが発生したが動じず。小説、そろそろ書き終わろうとしているのだが、なんだか終わりたくない病に見舞われたように怠惰に接する。とはいえまだまだ先は長いのだが。あおいが真千子に贈られる何かの賞のプレゼンターをやった、ということで沖縄と東京でおっさんが二人泣きそうになりながらツイート。数日前から「ブルース・デイヴィスンが咥え煙草を手を使わずに口の中に隠してまた出すのって何だっけ」と考えていたが、夜中にふと、あ、『第27囚人戦車隊』だ、と思い出すと同時に、先日のベスト300に入れてないことを後悔する。ゴードン・ヘスラー監督、申し訳ありません。DVD、出てるので驚いた。そしてあれの元ネタは『メイド・イン・USA』だったっけ?
某日、大晦日に生れて初めて最初から最後まで紅白を見た気がする。痩せ細って何も面白くはなかったけど。それ以外はシナリオ脱稿で体力を使い果たし、数日間を過す。とっくに年は明けていた。友人やスタッフと新年会ダブルヘッダーにも参加。だがもういい。今日を境にしばらく酒とはお別れしようと決める。新作小説に全身全霊を傾けよう。
某日、この間映画断ちも続けてきたのだが、昨日つい『昼下りの決斗』を見てしまったのを皮切りに『スノーデン』『砂漠の流れ者』と堰を切ったように。二日連続でLQとRGの顔を拝んだ。幸先よろしい。
某日、朝、レトルトカレー。ターメリック増量を試す。やや多し。執筆終盤を迎えて日がな作業。夜、セレベス(赤目芋)の煮物を作る。皮剥きは手間取るが、意外に簡単かつ美味。『わらの犬』、いまのご時世にこれをやるWOWOWの英断にも拍手だが、ジョン・コキロン、オランダ人だったって知らなかった。ロビー・ミュラーの先達じゃないか。ミュラー渡米時には便宜を図ることもあったのだろうか。しかしペキンパーの四本以外、まるで見ていない非礼。あらためて心より感謝を送りたい。
某日、平成三十年一月十二日、ついに七年越しで仮題『HANQUAI』初稿脱稿。だいたい二六〇枚。ただし書いていた時間はトータルで一年弱。資料を探す時間とそれを読む時間の方が圧倒的に長かった。さてあといくつ、私は「小説」を書くのだろうか。
某日、ぼーっとしたままの暮れ方、いわゆる結論が届き、さらにぼーっとしたまま三軒茶屋へ。たしか忘年会やったはずの龍&勝との新年会。ゲストはヅカ女優大鳥れいさん。基本的にこの世を徹底的に呪っているはずの現在の自分を三人に和ませてもらう。お好み焼きを食った後、ビルの7階だかの感じのいいバーでのんびり。三茶の旧バラックを初めて俯瞰した。やがて三人と入れ違いに某編集A氏が上司K氏とともに現れる。いい感じに出来上がっている二人とさらにカラオケスナックへ。久しぶりに〈恋するカレン〉を歌ったのだが、マイクを使う気にはなれなかった。結局、断酒はあっという間に解禁されたわけである。 まあ、このようにして私の2018年は始まった。謹賀新年。

残念ながら今回も写真はなし。

(つづく)

 






青山真治(あおやま・しんじ)
映画監督、舞台演出。1996年に『Helpless』で長編デビュー。2000年、『EUREKA』がカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞&エキュメニック賞をW受賞。また、同作品の小説版で三島由紀夫賞を受賞。主な監督作品に『月の砂漠』(01)『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(05)『サッド ヴァケイション』(07)『東京公園』(11)『共喰い』(13)、舞台演出作に『ワーニャおじさん』(チェーホフ)『フェードル』(ラシーヌ)など。
3月4日(日)、「YCAM爆音映画祭2018 特別編:35ミリフィルム特集」で『EUREKA』が上映。

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