「大音海の岸辺」第38回後編は、ジョージ・ハリスンの来日公演と『不思議の壁』、ポール・マッカートニーのビートルズ解散以降のアルバムレビューなどを再録します。さらに湯浅さんが新たに書き下ろした解説では、こうして原稿を何本も書き、レコードもたくさん持っていて、好きで聴いてきたものの、ビートルズに対してどこか醒めた感覚を持ち続けてきた理由が解き明かされます。

91年の来日公演の模様を収めたジョージ・ハリスン『ライヴ・イン・ジャパン』



文=湯浅学


コンサート ジョージ・ハリスン公演
心に染みる"誠意”の歌声


 "元ビートルズの”と冠されるようになって20年、元ビートルズのジョージ・ハリスンが、66年のビートルズとしての来日以来25年ぶりに来日。日本のファンの前で歌った(1日、横浜アリーナ)。
 終始リラックスムードで、さすがに気負いもてらいもない、地味だが心に染みるステージだった。一時期のような神経質そうな表現は一時も見せない。
 エリック・クラプトンを加えての、日本公演用の特別編成のバンドは、女性コーラスを含むベテラン揃い。派手さはないがジョージを手堅くサポートしていて好意がもてる。
 ビートルズ・ナンバーの「タックスマン」「サムシング」「ヒア・カムズ・サン」も披露。このときはひときわ歓声も高かった。
 20年余のソロ活動作品の中から「マイ・スウィート・ロード」「ダーク・ホース」など新旧とりまぜて歌ったが、「美しき人生」でリズムを強調してモータウン色を出すなど、随所にアレンジに渋い味わいを加えて聴かせていたのは、ベテランならではであった。
 すでに円熟の境地にあるとさえ言えるほど伸びやかで歌心あるギター・プレーを聴かせるエリック・クラプトンも4曲歌ってファンサーヴィス。
 しばらくステージ活動から遠ざかっていたとはいえ、自分の音楽、そしてそれを支持し続けてくれるファンに対してさりげなく誠意を尽くすジョージの姿には、静かに会場につめかけた"ビートルズを同時代体験”した人々はもちろん、追体験でその音楽に心酔している"今どきの若もん”をも納得させる輝きが、確かにあった。

(「産経新聞」1991年12月2日夕刊)

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