今週の映画川は、現在公開中のドキュメンタリー映画『ケイト・プレイズ・クリスティーン』(ロバート・グリーン監督)を取り上げます。1974年にテレビ番組の生放送中に拳銃自殺を遂げたクリスティーン・チャバックという女性キャスターの役を演じることになった女優ケイト・リン・シール。役作りのため自らの容姿をクリスティーンに近づけ、彼女の足跡を辿る過程でケイトに起こる変化を捉えた、虚構と現実が絡み合うように展開するこの作品を、降矢聡さんはどのように観たのでしょうか。
文=降矢聡
冒頭、映画会社のロゴが出終わったあと、黒画面が続くなか女性の声が響き始める。「スパイスの効いた女性でいたい」「良き妻 母 そして友人としても」「努力するからにはやり遂げたい」「少しでも苦しい気持ちになるなら それは失敗だ」。
本作はフロリダ州サラソタの地方局でキャスターをしていた女性、クリスティーン・チャバックが生放送中に自殺するという1974年に実際に起こったショッキングな事件を題材にしている。しかし本作はこの事件から着想を得て作られた、いわゆるフィクション映画でもなければ(劇中でも言及されているが、シドニー・ルメット監督の『ネットワーク』は、同事件から着想を得たフィクション映画である)、クリスティーン・チャバックについてのドキュメンタリー映画でもない。『ケイト・プレイズ・クリスティーン』というタイトルが示す通り、女優ケイト・リン・シールが、実在のキャスター クリスティーンを演じる、そのことについての映画になっているからだ。つまりどちらかといえば、クリスティーンではなく女優ケイトについての映画である、と言ってしまってもよいだろう。
もはや事前情報もなしに映画を見ることが出来る環境などほとんどない現代にあって、上記のような大まかな映画の様相を少なからず承知している者には、冒頭の女性による決意表明とも取れる独白は、ケイトがクリスティーンを演じる自身に向けた言葉だと、なんとはなしに了解しながら映画を見てしまうだろう。しかし、それが誤りであったことがわかるのは、映画も中盤に差し掛かった頃である。ケイトが役作りのためにクリスティーンの容姿や服装を真似、彼女の足跡を辿っていくなかでクリスティーンの15歳の日記に綴られた言葉として読み上げられるのが、冒頭に響く当の言葉だ。
2018年12月号
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