boidマガジン

2018年05月号

YCAM繁盛記 第45回 (杉原永純)

2018年05月09日 16:44 by boid

山口情報芸術センター=YCAMのシネマ担当・杉原永純さんによる連載「YCAM繁盛記」第45回。まずは現在開催中の三宅唱監督+YCAMのインスタレーション展「ワールドツアー」について、4月21日のオープニングイベントおよび同展の制作背景が綴られています。さらに「ワールドツアー」と並行して進められた"YCAM Film Factory"第4弾となる三宅唱監督作品の最後の2週間の撮影の模様もレポートしてくれています(過去2回の撮影レポートは第43回第44回に)。

4/21(土)「ワールドツアー」初日のライブはOMSB氏、Hi’Spec氏によるビートライブ。出来たての映像インスタレーションとセッションするために、本番3日前にYCAM入り。リハを十分に重ねてキレッキレのライブに仕上がった




『ワールドツアー』開幕/三宅唱新作映画撮影3週目&最終週


文=杉原永純


 昨年の8月のYCAM爆音映画祭で来山した三宅監督が、8ヶ月の滞在を経て完成したインスタレーション「ワールドツアー」が遂にオープンした。初日は、YCAM爆音映画祭2015以来のOMSB、Hi’Spec両氏による映像に合せたビートライブ。今回の4/21のライブは、見逃した人はもうずっと後悔していいというぐらいの完成度。
 YCAMデザインチーム村上さんがロゴデザインからTシャツ発注までバタバタとこなしてくれた「ワールドツアー」Tシャツも結構な枚数が綺麗に全部なくなり、会場限定のCDも、ライブを見てくれた人には宝物になるだろうというヤバいブツになっていた。OMSBさんがライブギリギリまでイラストレーターで手作りしていたジャケ写は秘密。

とにかくライブしてるミュージシャンは格好いい(撮影:谷康弘 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM])



 ライブに先行しておこなわれた樋口さんと三宅さんのトークは、1時間丸々映像を流しながら、コメンタリー的に進んだ。「無言日記」を三宅さんに提案した樋口さんにしかできないトーク。ヴェンダース『リスボン物語』から『レディ・プレイヤー1』『ペンタゴン・ペーパーズ』へ。合わせて見てみると新たな発見があるかもしれない。 「無言日記」から派生した「ワールドツアー」は、複数の撮影者による日記映像を、三宅さんが編集して複数スクリーンで構成している。撮影は特別な機材は使わず、スマートフォンの動画機能のみを使うというルール。なお、8ヶ月に渡って撮影された素材は膨大で、今回展示の編集は三宅さんが一人でおこなっていて、自分は口を出さないように決めていた。
 このプロセスで個人的に思い出したのは、『テレクラキャノンボール2013』だった。6名のAV監督たちの映像に、メインカメラ、バイクカメラの映像もあり、素材は膨大。カンパニー松尾さんの編集は、非常に重い作業だったことは容易に想像がつくし、「劇場版」の編集は、松尾さんがこれまであまり想定していなかったはずの映画館のスクリーンで見るお客さんで、その点は色々と迷いはあったと思う。
 その年、2013年秋以降、松尾さんと相談して12月、1月、最終的に2月に、劇場公開日をうちうちに二回延期していた。でも、編集の方向性は、変にアドバイスしたり途中の編集状況を見せてくれとせっついたり、とにかく茶茶を入れるべきではないと思っていた。
 編集に並走することも、通常プロデュース側の振る舞いとして当然だろうと思う。ただ、初挑戦の時こそ、作家にプロセスを委ねるべきだし、同時に、作家が、孤独に、編集に没頭する期間は大事だと信じている。何も根拠はないのだが。自分の経験上、作家が編集に没頭している最中は、潔く、勇気付けることぐらいしかできない。

 
 
 

「A面」と呼んでいる三面横連結の「(複数の)無言日記」と、向かい合った反対側には「B面」と呼んでいる走馬灯のような映像が向かい合っている。ちなみにトーク&ライブの時だけ両A面


 「ワールドツアー」に来る方は、どういう人だろうか。図書館に来て、ふらりと会場に足を運んだ人かもしれないし、期間中別のきっかけで来たアート関係者かもしれない。さらに、複数視点の映像をシングルスクリーンにまとめる編集よりも、複数視点を複数スクリーンで展開する「ワールドツアー」は、より大変な作業だ。そのまま、ではなく、作家の視点で、複数を再構成する。どのような仕上がりになるべきなのか、展示の大きなゴール地点は色々と話したが、個々の映像のピックアップ/編集は三宅さんに完全に委ねた。
 結果は、予想以上に開けた作品になったと思う。個人的な感想をいえば、それぞれの日記映像が合わさることで、複数の人生が「あみたくじ」のようだと思ったりした。横に三面繋がっている映像はほぼ同じ日に撮影されている。同じカット点で、どんどん流れていく。自分は映像A(仮に山口)にいた(かもしれない)。でも、もしかしたら映像B(例えば東京)にいたかもしれない。それとは別の人が映像C(タイなり、ドバイなり)を撮影していた。あらゆる可能世界の現前。するりと並行世界に入り込んでいく感覚を、皆の手元にあるスマートフォンで撮影した映像から作り上げた。「せっかく長く滞在するならば、その時間の厚みを生かした作品を作りたい」と、三宅さんは言っていた。そして実現できた。
 世界は複数の視点でできているし、そのことが豊かなんだと、インスタレーションに身を置くことで感じられる。困難な制作を孤独にやり遂げた三宅さんに拍手を送りたい。初日を迎え、東京に帰った三宅さんは、夏にYCAMでお披露目する映画の編集を進めている。

 
2月、映画の撮休日に実験した展示のプロトタイプの様子





 前々回から小分けに書いていた三宅唱新作映画撮影現場レポ残り2週間分を下記に。まだ、クランクインから3ヶ月しか経っていないのか。もっと遠くに感じる。


DAY7:2月17日(土)快晴

 
 
 
一日山登り。お昼はロケ地から近くの長沢ガーデン。うどんの自販機が有名なB級山口観光スポット



 山口市内にある陶ヶ岳に登山しながらDNA抽出のための植物を採取するというシーン。DNA抽出するための植物はその場で「実際に」探していく。この日はメインの出演者陣はなしで、編集上どこに入ってくるかもガチガチに決めずに撮影を進めていく。起きたことを記録する。出演者たちには登山の道中iPhoneを常時携帯してもらって、三宅さんは7Dを構える。
 月曜に暴風雪だったことを思い出せば、奇跡のように穏やかな天候の日だった。まだまだ気温的には寒かったのだが、雪の中での撮影を経験した直後だったので、十分あたたかく感じた。
 この撮影期間中で最も騒がしい日になった。この日の出演者は、とある高校の女子仲間4人組。テンションが朝から尋常じゃなく高く、山登って降りた頃にはきっとへばるだろうと思っていたら、結局YCAMに戻る車の中がうるささのピーク。元気すぎ。ミドル・ティーンはまだ動物と知る。



DAY8:2月18日(日)晴

 
 
 
YCAMと中央公園で撮影



 午前しか撮影できない出演者がおり、主演の一人「シュン」との重要なシーンがあったのだが、集合時間になってもシュンが来ない。電話も繋がらないので、シュンの幼稚園からの友達であるもう一人の出演者「タケ」を引き連れて、シュンの自宅に案内してもらいつつ車で直行。無事、寝坊。開館前に済ませたかった館内シーンを10時までに撮りきれず、市内の高校中学校のテストシーズンと被っていたせいで、オープンと同時に大量の来館者が館内の隅々に押し寄せる(YCAMは入館無料なので、館内に配置されたテーブルは勉強場所として朝一から取り合いになる)、が、現場でバタバタしているうちに総務がいつの間にか撮影周辺のスペースを「KEEP OUT」テープで区切ってくれており、なんとかシーン埋まりまで撮影を続行できた。YCAMスタッフの臨機応変な対応に感謝。



DAY9:2月21日(水)曇り

 
バイオ・ラボのシーンを着々と。この日の先生役として津田和俊さんがほんのり出演



 撮影もゴールが見えてきており「撮るべきもの」「撮りたいもの」に無意識に優先度をつけていく。一日YCAMでのシーンを潰していく。平日の撮影はこの日が最後。メインの三人のシーンを撮っていく。一日YCAM館内。特にバイオ周りの細々としたシーンを着実に進めていく。



DAY10:2月24日(土)雨

 
YCAMの裏導線と中央公園



 後半の重要シーンの一つ。「タケ」「うめ」の二人の決定的なシーンを本読み、リハーサル、カメラ回しながら何度も繰り返して、無事この日は終了。二人ともクランクインからは見違えるように、それぞれの芝居ができるようになってきている。



DAY11:2月25日(日)曇り

 
撮影最終日に来るといってくれたNHKが約束どおりクランクアップに駆けつけてくれた



 クランクアップの日。そして映画の中でも最後になるシーン。
 ほぼ順撮りで撮ってきているので、全体のスケジュールはスタッフも出演者も同じ速度で理解している。三宅さんが粘りたいところ、サクッと進みたいところ、その時々の三宅さんの雰囲気で出演者もスタッフも足並みを揃えることができていた。
 出演者たちは基本的に演技のプロではない、地元の中高生たちである。今回の現場には、いわゆる演出部や制作部はいない。当然雑雑とした仕事はどんどん発生するので、三宅さんと自分とで分担し、進行状況は全員で共有できるように進めていった。作るべき映画に対して、必要とされる制作体制は異なるはずだろう。当然のことと思うが、いざ「映画を作る」と誰かが発すると「どう作るか」という最初のステップに登るとき、あまりにも頑丈な「映画制作こうあるべし」という固定観念がもたげる。もちろん従来のスタッフ体制を維持した映画制作体制が適した場合もあるだろう。小規模のスタッフ体制の利点も不利な点もあるが、ただ、YCAMで映画制作するならば、この方法が良いと信じていた。
 この点だけは、YCAMでの最初の映画制作で『ギ・あいうえおス』をやるときから同じ問題意識で、三宅さんとのYCAM Film Factory第4弾でやっと貫徹できた。YCAMの映画制作プロジェクトは、いつかきちんと文章でまとめないといけないが、とにかく、自分としてはこの三宅さん新作映画でもってやるべきことはやったと感じるので、これでYCAMでの新作映画制作は一旦幕を閉じることにした。





杉原永純(すぎはら・えいじゅん)
三宅唱+YCAM新作インスタレーション展「ワールドツアー」は5/27(日)までです。ご来場お待ちしています!

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