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2018年02月号

樋口泰人の妄想日記スペシャル 新宿ピカデリー爆音映画祭爆音調整レポート第4夜

2018年02月13日 13:33 by boid
2018年02月13日 13:33 by boid

boid社長・樋口泰人の連載「妄想映画日記」特別編、新宿ピカデリー爆音映画祭爆音調整レポート第4夜は『レ・ミゼラブル』『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ 王の凱旋』4作品の爆音調整。『バーフバリ』は元の音データの歪みが爆音上映で増幅されないように、物語に集中できるギリギリの音量での調整となったようです。「新宿ピカデリー爆音映画祭」は3/2(金)まで開催ですので、ぜひご来場ください。




文=樋口泰人

2月12日(月)~13日(火)

いよいよ調整も最終日ということもあり、この日の最終回の『アトミック・ブロンド』を観客として観た。さすがに疲れていた。弱った身体にはかなりきつい。音楽の音量が大きいのは映画自体の元々の設定で、単にそれを生かした形。殴り合いの音もでかい。その他の環境音とセリフとのバランスは取れているので、とにかく、この映画自体がそういう音になっているのである。もう、こちらまでボコボコにやられた気分になって、身体中が重い。時代設定である89年という時代の重さということになるだろうか。生きていくのは大変である。しかしこういった極端な音の入れ方は最近のはやりなのだろうか。確か丸の内ピカデリーで爆音上映した『IT/イット“それ”が見えたら、終わり』も似たような極端さを持っていた。




『レ・ミゼラブル』
『アトミック・ブロンド』と比べるのも変なのだが、とにかくこちらは生身の人間がそこにいてそこで歌っているという気配や空気が映画全体から漂う。生身の人間はいいこともするし間違いも犯すし、傷つき死んでいく。その悲しさが映画全体を覆っていた。爆音は、ただそれをちょっと増幅させるだけ。余計なことはしない。そのうちに各所から生きている人間や死んだ人間やこれから生まれるはずの人間が集まってくる。それをひたすら待つ。そして何かが起こる。あらゆる時代を生きたさまざまな人たちに会いにきていただけたらと思う。



『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
久々の爆音。そして今回のラインナップの中ではまったく異色の映画で、冒頭のワンダ・ジャクソンのゆっくりとねじれた曲をはじめとして、とにかくただただひたすら、死ぬほど退屈な永遠の時間に身を任せ、渦巻き淀む時間の中でゆったりと漂うのみ。吸血鬼の時間を共有する。彼らのリズムをただただ受け入れて、そこにひらけた世界の姿を一望する。音はひたすら日常の時間を押し広げ引き伸ばすばかりである。低音が過剰に入っている。今回の爆音のシステムだと少しバランスが崩れてしまう。ただそれも人間の身体感覚で、吸血鬼の身体感覚ではない。おそらくこうではないかという吸血鬼の身体感覚に合わせて低音を調整した。それはまた、廃墟のようになったデトロイトの街の地下に永遠に張り付いている音だとも言える。その異様さとそこに込められた永遠が、われわれの人間的な身体を押し広げてくれるはずだ。



『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ 王の凱旋』
ともに昨年の公開だったので、うっかり同時期にまとめて作られたものを2本に分けたものだとばかり思い込んでいた。そうではなかった。『伝説誕生』は2015年、『王の凱旋』は2017年。音質も違っていた。しかしそれ以上に、2作品とも元々の音量の設定が異常に大きかった。通常の上映でも大きな音なので、爆音上映だと一体どうなるのかという声は各所から聞こえてきていて、その件は分かっていたつもりだったのだが、「分かっている」レベルを超えていた。元々のデータに入っている音も歪み気味で、爆音だとそれも増幅される。しかし通常の上映よりも大きな音で上映しないと意味はない。もちろん、爆音の音量設定も規定値よりもだいぶ下げた。だいぶ下げたけれどもまだでかい。物語に集中できるギリギリの音量にできるかどうか。だが一方で、映画館のシステムでの大音量上映と、爆音のシステムでの上映では、同じくらいの音量だったとしても全然違う体感になることも事実。とりあえずその部分は確実に分かってもらえると思う。要するに、通常上映も相当でかいが、爆音だとさらにでかく、とはいえあまりでかいと物語に集中できないのでそうならないように配慮。それでも音質は確実に違う。ということである。そしてその音質で観てみると、この作品の音楽の面白さに気づいてもらえるはずだ。M・M・キーラヴァーニという音楽家のプロフィールはまったくわからないのだが、コッポラの『ドラキュラ』やポランスキーのいくつかの映画音楽を担当したポーランドの現代音楽家ヴォイチェフ・キラールのような映画音楽家として、通常の映画音楽の文脈から少しだけ外れるゆえに、映画音楽自体を内部から押し広げるような映画音楽を作ることのできる人のように思えた。





とりあえず4日間の爆音調整がすべて終わった。午前5時。本日は4本だけだったからそれなりに早く終わる予定だったのだが、それぞれに時間がかかった。さすがにへばった。
今週はマジで完全に役立たずである。



新宿ピカデリー爆音映画祭
会場:新宿ピカデリー(東京都新宿区新宿3丁目15番15号/TEL:03-5367-1144)
期間:2018年2月10日(土)~3月2日(金)※各日上映スケジュールは公式サイトにて発表
料金:1作品一律1,800円(税込)
*各入場券は下記日程にて、新宿ピカデリー公式WEB、及び劇場窓口にて発売(※但し、劇場窓口での販売は残席がある場合のみ)

【2/10(土)~2/16(金)分】
WEBでの販売:2/7(水)18:00~
劇場窓口での販売:2/8(木)劇場OPEN~

【2/17(土)~2/23(金)分】
WEBでの販売:2/14(水)18:00~
劇場窓口での販売:2/15(木)劇場OPEN~

【2/24(土)~3/2(金)分】
WEBでの販売:2/21(水)18:00~
劇場窓口での販売:2/22(木)劇場OPEN~

公式サイト:shinpicca-bakuon.com



樋口泰人(ひぐち・やすひと)
映画批評家、boid主宰。2/10(土)~3月2日(金)に「新宿ピカデリー爆音映画祭」が開催。また、2月21日(水)~24日(土)は渋谷WWWで「爆音映画祭2018特集タイ|イサーン VOL.2」も。

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