boidマガジン

2018年03月号

PAN ASIA -Project Mekong- 第1回 (Young-G)

2018年07月20日 00:06 by boid

stillichimiyaのメンバーであり、DJ、プロデューサー、サウンドエンジニアであるYoung-Gによるboidマガジン新連載「PAN ASIA -Project Mekong-」。約1年間のアジアにおけるHIP HOPの現地調査、山梨の一宮町と共通する「桃源郷」を探す旅の第1回目をお届けします。



その1「桃源郷への扉」

文・写真=Young G


2018年2月下旬、僕はタイ、バンコクでこれを書いている。11ヶ月、およそ一年に渡るタイをベースにした滞在が終わろうとしている。
今、バンコクの下町にあるアパートにあるのはイサーンを旅して手に入れた大量のタイ音楽のレコード、カセットテープ、CD、タイの西側国境にあるミャンマー難民が通う病院「メータオクリニック」のTシャツ、カンボジアのヒップホップクルー「KlapYaHandz」のキャップ、フランスのパリ郊外にあるラオス寺院のお守り……全てこの旅を振り返るいい思い出の品々でもある。

自分がおよそこの一年で体験した事、この旅の記録をここに記しておこうと思う。旅の目的は兼ねてから収集、研究していたアジアにおけるヒップホップの現地調査(ライブ、イベント、情報の発信方法、流行、ファッション……ヒップホップに関連する様々な事象まで)、さらにはモーラム、ルークトゥン、レー、タルン、カントゥーム……独自の音楽が豊かなタイはもちろん、ラオス、カンボジア、ミャンマーに伝わる多数の民謡や歌謡曲、民族音楽の発掘、収集、研究、だった。

きっかけは2011年にフィリピンはマニラのスラム、トンドという場所で企画された「RAP IN TONDO 2」というプロジェクトにおみゆきCHANNELとして参加した事でアジアのHIPHOPに衝撃を覚え、それ以来当時からほとんど知られていなかったアジア諸国のHIPHOPに興味を持った。それからアジアのHIPHOPをコンパイルしたMIXCD(「PAN ASIA」シリーズ、1は桃源響RECORDS、2はBlack Smorkerよりリリース)を2枚制作した。そして2015年、映画『バンコクナイツ』でタイに4ヶ月滞在し撮影をした事でタイに良い足がかり(言語や歴史を深く学べるきっかけ)も出来た。そこで見たものと経験したものが僕をまたここに呼び戻した。何かに呼ばれるように、日本でのstillichimiyaの活動等も休止してタイに来てしまった。 それは自分でさらにアジアの事、音楽、HIPHOPやライフスタイル、文化、歴史、それらを全てもっと深く掘り下げてみたい、と強く思ったからだ。そしてそこにはいろいろな意味で”ずっと探している”「桃源郷」へのヒントがあった気がした。

ある日、山梨の一宮という田舎町でタイやラオスの古いモーラムやルークトゥンを聴いていると、ここで生まれた音楽かのように景色にフィットしている事に気づいた。改めて思うと不思議だった。アメリカのヒップホップより、日本で大人気のAKBよりも、完全に景色と空気にフィットしたグルーヴだったのだ。
それは僕たち日本人と同じような顔をしたアジアの人達が同じような場所で育んできた音楽だから本当は当たり前なのだ。




しかし生活していて耳に入ってくる音楽は欧米の物かそのフィルターを通した日本や海外の音楽ばかりだ。もちろんいい曲も沢山あるのだが、日本で改めて考えると本当にそれ以外の音楽は耳にほとんど入ってこない。

それに気づくと改めて色んな事を考えるようになった。音楽、歴史、戦争、金‥。日本の音楽も政治や戦争、経済、その時の風潮に様々な影響を受けて来た。タイを始めとする東アジアの音楽はもし日本が自分達の音楽を進化させていたらこうなっていたんじゃないか、と思わせてくれた。

それは音楽の中に自分達の文化、アジアのグルーヴが「守られている」状態なのかもしれない。

守られている、ということは闘う人がいる、という事でもある。それを闘い守り抜き、現在も脈々と続くタイ音楽の流れを作った偉大な戦士がスリン・パクシリやドイ・インタノン、テープパプット等のイサーンを代表するプロデューサーなのだとモーラム等のイサーン音楽やSoi48の活動から学んだ。そして僕にとってそれはかねてからファンだったカンボジアのヒップホップクルーKlapYaHandzのボス、Sok"cream"Visalでもあった。


SREYLEAK Feat LISHA Kal Khyom Nov Pi Kromom


この曲はバンコクナイツ撮影中によく聞いたカンボジアのHIPHOIPクルー「KlapYaHandz」レーベルの一曲。
美しいカンボジアの景色とコミカルなビデオも最高な「いろんな男が結婚を申し込みにくるけど、どれもろくでもない男ばかり」という内容のこの曲は、オリジナルのクメール歌謡を見事に現代版HIPHOPにリメイクしたカバー曲だ。
独特の語感があるクメール語で唄う素晴らしい歌声のSREYLEAK、カンボジアNo1フィメールラッパーのLishaによる女性的で親近感のあるラップはアジアらしい母系社会性(女性が強い!)を思わせる素晴らしい曲だ。日本のHIPHOPにはあまりない土着感だがとってもおしゃれで流行やトレンドに流されない本質的な音楽の良さがあると思った。こんなに素晴らしい音楽がアメリカやヨーロッパよりすぐ近くにあるのに日本には情報が入ってこない‥なぜか?そこには様々な理由がある。それはこれを見ているあなたにもよく考えて欲しい。この旅の記録こそ、その謎を解く鍵になるはずだ。そんな風に思って日本を旅立った。偉人たちが残した足跡をたどって、「桃源郷への扉」を探す旅が始まった。




続く


<告知>

SOI48 VOL.27 ONE MEKONG SPECIAL

4月1日(日) 新宿 BE-WAVE 18:00-24:00

■SPECIAL GUEST DJ:YOUNG-G (STILLICHIMIYA)

■DJ+LIVE:俚謡山脈 (MOODYAMA & TAKUMI SAITO)+クラーク内藤

■DJ:KOICHI TSUTAKI、KUNIO TERAMOTO aka MOPPY、Soi48 (KEIICHI UTSUKI & SHINSUKE TAKAGI)



Young-G
山梨県一宮町で生まれたムーブメント”stillichimiya”メンバー。DJ,プロデューサー,サウンドエンジニア‥音に関わる様々な活動を展開。ソロ活動としてDJやビートを提供する傍ら、田我流とカイザーソゼ、おみゆきCHANNEL、IS PAAR BAND等のプロジェクトにも参加。2011年フィリピン、マニラのトンド地区でのHIPHOPワークショップを経てから”アジアで独自の進化を遂げるHIP HOP”をテーマにしたMIX CD「Pan Asia」シリーズ(Vol1,2)を製作。日本で流通しないアジア圏のHIPHOPアーティストの招聘や普及活動を展開。2017年に公開され、タイ~ラオスで撮影された空族の新作映画『バンコクナイツ』に楽曲を提供、録音スタッフとしても参加。同映画は毎日新聞映画コンクールの監督賞、音楽賞と言う名誉ある賞に輝いた。タイを中心にラオス、カンボジア、ミャンマー等、メコンの音楽に魅せられおよそ一年にわたり現地で音楽を収集、研究。独自の視点と経験から放たれる音は、リスナーを日常と洗脳から解き、桃源響へと導く。

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